[動物]イヌ,雑種,雌,8 歳.
[臨床事項]1988 年 6 月 2 日,呼吸困難の稟告で来院.単純X線撮影にて肺野のX線透過性減退と後腹膜腔内への空気流入を観察.6 月 4 日に死亡.第 1 病日および第 3 病日の血液生化学的検査で重度腎不全を呈していた.第 2 病日採取の血清と尿に除草剤 paraquat がそれぞれ 0.4 μg/dl,2.0μg/dl 含有していた. [組織所見]皮質尿細管は全体として水腫変性を生じていた.髄放線の尿細管上皮細胞(主として近位尿細管直部)の細胞質に大小球状,淡黄緑色調で,均質な滴状物質の沈着が顕著であった.滴状物質は概してそれ自身の辺縁に黄色調の薄層を持っていた(図 1).パラフィン切片による脂肪染色,Nile blue 染色にて滴状物質はエタノール不溶性で濃青色(図 3)に,また,Sudan V 染色においても,橙色調に染まった(図 4).さらに,パラフィン切片−Sudan black B 染色で滴状物質はエタノール不溶性で緑黒色に,そして,Oil red O 染色で赤橙色に染まった.Ziehl-Neelsen 染色(Hematoxylin-Carbol fuchsin 染色)にて,滴状物質は深紅色に染まった(図 2).滴状物質は過酸化脂質(lipid peroxide)を含むものとみなされ,「抗酸性滴 (acid-fast droplets)」,そして,このような像を,細胞の「抗酸性空胞化 (acid-fast vacuolation)」と呼称する.因みに,昨年('92)春の獣医学会においても,肝細胞と小腸粘膜上皮細胞に発現した同様の病理像を報告している.
[診断]過酸化脂質ネフローゼ,Lipid peroxide nephrosis
(「抗酸性滴変性」性上位ネフロンネフローゼ,Upper nephron nephrosis characterized by“acid-fast droplet degeneration”).
[考察]“acid-fast droplet”(「抗酸性滴」)の形成は paraquat 暴露に因ってもたらされたとみなされ,6 価クロムや下痢性貝毒の場合と同様に,急性毒性傷害の一形態像を示すものと思われる.(佐々木卓士) |