No.810 イヌの右心房        東京農工大学


[動物]犬,パグ,8歳,雄.
[臨床事項]1週間前から元気・食欲の低下ならびに鼻汁の排泄がみられ,ここ2〜3日は呼吸が苦しそうとのことで受診.胸部X線検査で細菌性肺炎を示唆する肺胞パターンが認められ,抗生物質・強心剤の投与とともに酸素吸入などの処置を受けたが,来院7時間後に死亡した.
[剖検所見および参考組織所見]著変は肺と心臓に認められた.肺は全葉にわたって赤桃色〜暗赤色を呈し,湿潤性であった(組織学的に化膿性気管支肺炎).心臓に関しては,外形的に異常はみられなかったが,右心耳を中心に著明な硬結が触知された.割面では,右心房の右心耳側2分の1は灰褐色・充実性で硬固な心筋様組織塊からなり,内腔は存在していなかった.一方,右心房の心房中隔側2分の1には本来の心房腔が存在しており,三尖弁を介して右心室腔と連絡していた.
[組織所見]右心耳腫瘤(図1)は,辺縁部に厚い線維性被膜を有し,内部に不規則な配列を示す心筋線維束を入れていた(図2).腫瘤辺縁部の線維性被膜は密に配列した膠原線維束からなり,その中に血管組織,脂肪組織,ヘモジデリン色素を富有する髄外造血組織を包含していた(図3).腫瘤内部の心筋線維束は,線維性被膜から延びた梁柱状の線維性結合組織(しばしば内皮細胞によって内張りされたクレフトを有する)によって分画されていた.個々の心筋線維束内では成熟心筋線維が著明な錯綜配列・樹枝状分岐を示しており,核分裂像は全く見いだされなかった.また,腫瘤を構成する異常心筋組織は,きわめて自然な形で右心房の正常心筋組織に移行していた.
[診断]犬の右心耳にみられた心筋過誤腫
[考察]本腫瘤は,臓器本来の組織構成成分の量的配合異常によって生じた局所的な組織奇形(発生異常),すなわち過誤腫の範疇に属する病変であると判断された.心臓の過誤腫としてはこれまでに先天性横紋筋腫,血管過誤腫,乳頭状線維弾性腫などが知られているが,今回の過誤腫は,形態的に上記のいずれとも明らかに異なるものであり,新たなタイプの過誤腫と考えられた.研修会では,加齢性病変,代償性肥大あるいは炎症後の変化としての可能性についても意見が交わされた.(町田登)