No.811 ラットの心臓       残留農薬研究所


[動物]ラット,Wistar Kyoto (WKY/NCrj),雌,14週齢.
[臨床事項]本例は,ある薬物の繁殖毒性試験に用いたP世代の動物であり,妊娠0日より投薬を開始し,哺育20日に計画殺した.試験期間中,臨床的には異常を認めなかった.
[剖検所見]剖検では心臓に中等度の肥大が認められた.心臓を横断切断したところ,左右心室壁,心室中隔が肥大していた(図1,左側は正常動物).この動物のほかにも対照群を含め供試動物90例中9例に軽度の心肥大が観察された.また,試験途中に死亡した1例(最低用量群)には重度の心肥大が認められた.
[組織所見]心筋は著しく肥大し,細胞核の偏在が認められた(図2).さらに,単核球の浸潤,心筋の線維化ないしエオジンに均一に染まる変性心筋細胞が観察された(図3).線維化および細胞浸潤は心外膜下にも観察された.左心室壁と心臓中隔の結合部では心筋配列の乱れが観察された(図4).さらに,肺動脈弁には顕著な線維性肥厚が認められた.
[診断]WKYラットに見られた心肥大
[考察]使用したWKYラットの約10%に同様な心肥大が観察されたこと,また,F1世代(7週齢で剖検)にも心肥大を呈する動物が3例観察されたことから,本疾病の背景には先天的な心臓の異常があり,そのため成長に伴い心臓に負荷がかかって発生した病変であると推察した.肺動脈および心室中隔の詳細な検索ができなかったことから,原因となる心臓の異常は特定されなかった.肥大した心臓にみられた心筋炎,線維化,心筋壊死および物理的な負荷のかかりやすい部分とされる心室壁と中隔の結合部における心筋の配列の乱れはHypertrophyに付随して観察された所見であると判断した.(桑原真紀)