No.813 ウマの肺          酪農学園大学


[動物]ウマ,サラブレット種,雌,2歳.
[臨床事項]2001年1月初旬より食欲不振と発熱を訴え,超音波検査で脾臓に膿瘍と思われる所見と,軽度腹水の増量が認められた.抗生物質で一時症状は好転したが,再び悪化し2月初旬から高熱が続き,起立困難を呈したため安楽死処分後剖検された.
[剖検所見]剖検時,脾臓に直径1 cm大の白色硬結巣が認められた.肝臓は腫大し小葉構造が明瞭であった.十二指腸には穿孔性潰瘍と腸間膜リンパ節の腫大が認められた.肺は全域に亘り含気に乏しく硬度,重量ともに増し灰白色を呈していた.割面も全葉に亘り灰白色を呈し軽度滲出液の流出も認められた.
[組織所見]本症例で最も特徴的な所見は,肺胞マクロファージとともに肺胞に浸潤する多数の多核巨細胞であった(図1).間質には毛細血管の拡張と水腫性肥厚ならびにリンパ球,形質細胞,マクロファージの軽度浸潤が観察された.肺胞内に存在するマクロファージと多核巨細胞の細胞質内にはPAS染色陽性の泡沫状物質が存在し,それは好塩基性を示す嚢子内虫体と,シストから構成されていた.抗ヒトPneumocystis (P) carinii抗体を用いた免疫組織化学的検索ではHE染色の泡沫状物質に一致して陽性を示した(図2).グロコットメセナミン銀染色では三日月型から円形を呈する銀染色陽性のシストが観察された.グラム染色ならびに抗酸菌染色は陰性であった.上述する所見は肺の全葉に亘って観察された.
[診断と考察]ウマのカリニ肺炎は3ヶ月齢以下の子馬で報告はあるものの,今症例のように2歳齢という成熟した年齢での報告はない.またカリニ肺炎において最も特徴的な所見である肺胞内を充満する泡沫状物質は今症例においてほとんど存在せず,マクロファージと多核巨細胞の浸潤を主体とした,過去に例を見ない非常に希有な症例であった.肺胞内多核巨細胞の浸潤を伴うカリニ肺炎は2ヶ月齢の5頭のウマで報告されているが,全てR. equiとの混合感染によるものであった.今症例の肺においてP. carinii以外の病原微生物は病理組織学的検索では検出されず,この病態を全てP. cariniiに起因したものとするには疑問の残るところであるが,診断名は肺胞内多核巨細胞の浸潤を伴うP. cariniiによるウマの間質性肺炎とした.(佐古敏郎)