No.814 イヌの肺          岩手大学


[動物]犬,ゴールデンレトリバー種,雌,6歳.
[臨床事項]2000年9月上旬,呼吸困難と食欲低下を主訴に某動物病院へ上診.X線検査で肺全野の陰影度が増加し,血液検査では核の左方移動を伴う白血球軽度上昇がみられた.肺炎の治療を施すも症状は改善されず28日死亡.死亡後約2時間で剖検が行われ,胸腔内および腹腔内臓器のみ病理学的検索に供された.
[肉眼所見]気管支内には血様滲出物がみられ,肺全葉にわたり粟粒大から拇指頭大の血腫様結節が密発していた.肝臓および腎臓に粟粒大から小豆大の類白色結節が散見された.心臓は円形心であり,その他の臓器に肉眼的異常は認められなかった.
[組織所見]結節内には不整な管腔が密に形成され,管腔内には赤血球が充満していた(図1).同様の結節は多中心性かつ多発性に形成されていた.管腔は,一層から数層の不整型な内皮様細胞で内張りされ,有糸分裂像が頻繁にみられた(図2).これらの内皮様細胞には塊状に増殖する部位もみられ,塊の中には微小な管腔が形成されていた.鍍銀染色では内皮様細胞は好銀線維に囲われ管腔構造を呈していた(図3).肝臓ならびに腎臓でみられた類白色結節は肺でみられた組織構造と同様であった.免疫組織化学検索として,factor?,α-SMA,vimentin,desmin,cytokeratinについてABC法を試したが,α-SMAのみが内皮様細胞下の平滑筋に陽性を示した.結節部の透過型電子顕微鏡検索では異型大型核を有する内皮様細胞内に,血管内皮細胞に特徴的に認められるWeibel-palade-bodyがみられた.
[診断と考察]個々の結節に形成された病巣は,管腔形成性の腫瘍であることおよび電顕的な所見より血管肉腫と診断された.本症例は肉眼的に血腫様結節が密発し,一見すると腫瘍性病巣としては捉えがたく,原発病巣が不明で組織学的には血管肉腫が多発性にみられることから,肺における多中心性原発腫瘍として提唱した.しかし,研修会の席上,今回の病変はいわゆる血管肉腫の際にみられる転移性の病変でよいとされ,「犬にみれらた血管肉腫」と診断された.(御領政信)