No.815 ネコの肺および胸椎腫瘤    大阪府立大


[動物]猫,雑種,雄,12歳.
[臨床事項]胸水および背部の腫瘤を主訴とし,本学家畜病院に転院してきた.X線検査では左肺の不透過像が認められた.CT検査において,左胸部の高吸収像ならびに胸骨,肋骨〜胸椎に腫瘤が確認された(図1).
[剖検所見]左肺は結節状に硬度を増し,全葉にわたり退縮が顕著であった.第4〜7胸椎から左側肋骨にかけて3.7 X 3.5 X 2.0 cm大の,左第1〜4肋骨体にかけて5.0 X 3.5 X 1.7 cm大の,胸骨部に4.0 X 5.5 X 1.8 cm大の桃白色硬化性腫瘤が認められた.
[組織所見]左肺は,上皮様細胞の腫瘍性増殖および著しい膠原線維の増生からなっていた.腫瘍細胞は様々な形態を示し,一層に配列した立方形細胞からなる肺胞様の構造,あるいは線毛をもつ円柱上皮が管腔を形成している像が確認された(図2).胸椎腫瘤は,肺腫瘤に類似した上皮性腫瘍細胞の増殖と,その周囲の骨増生が顕著であった(図3).肋骨および胸骨の腫瘤も同様の組織像を示し,線毛上皮や粘液産生細胞への分化や,明らかな腺腔構造も観察され,周囲の筋組織へ浸潤性に増殖していた.腫瘍細胞は抗ケラチン抗体を用いた免疫染色に陽性を示し,単細胞性角化も認められた.腫瘍あるいは周囲組織の血管およびリンパ管内には腫瘍細胞塊が多数認められ,胸椎,肋骨および胸骨の腫瘍は,肺に発生した腫瘍が血行性あるいはリンパ行性に進展したものと考えられた.また,増生骨は,活性化した骨芽細胞や破骨細胞を伴った成熟骨であり,骨組織および間質細胞の異型性は認められなかった.
[診断]骨転移を伴う肺腺癌
[考察]肺腫瘍は,その組織学的特徴から細気管支肺胞型腺癌に分類されると考えられた.顕著な骨形成を伴う骨転移性腫瘍として,ヒトにおける乳腺癌や前立腺癌の報告があるが,動物ではこのような例は稀であるとされている.骨転移性腫瘍における新たな骨形成は,骨融解に対する反応性変化だけではなく,腫瘍細胞から産生されるサイトカインや骨基質蛋白が複雑に関与していることが,ヒトやマウスの腫瘍を用いた研究により明らかとなってきている.本症例では,このような因子の関与は明らかではなかったが,発生状況ならびにその組織像は,ヒトでの造骨型骨転移の報告例に類似していると考えられた.(中西雅子)
[参考文献]Rosol TJ. J Bone Miner Res, 15: 844-850 (2000).