No.816 ウシの舌   動物衛生研究所 北海道支所


[動物]ウシ,黒毛和種,雄,37日齢.
[臨床事項]繁殖牛23頭,肥育牛2頭,仔ウシ10頭を飼養する農場において,生後28日齢仔ウシが多量の流涎,口臭を呈した(RBC:799 X 104/μL,WBC:26,500/μL).舌根部背面に潰瘍が認められたため,口腔内洗浄,抗生物質による治療を実施した.臨床症状が確認されて8日目には食欲減退,起立困難となり,10日目に死亡した.
[剖検所見および参考組織所見]舌根部背面に5.5 X 4.5 X 3.0 cm境界明瞭,黄褐色壊死巣が認められた.その他の臓器には著変は認められなかった.
[組織所見]病変は重度な限局性の壊死性舌炎が特徴であり,骨格筋の変性並びに凝固壊死,好中球とマクロファージの浸潤が認められた(図1. HE.).これらの壊死病巣中には多数のグラム陰性好銀性無芽胞長桿菌が認められた(図2. Warthin-Starry. ).棍棒体の形成は認められなかった.抗Fusobacterium necrophorum subsp. necrophorum strain ATCC25286血清を用いた免疫染色にてこれら長桿菌は陽性を示した(図3. 抗F. necrophorum 免疫染色. ).超微形態学的検索では,この長桿菌は幅0.65μmであり,多数の電子密度の高いリボソームならびに電子密度の低い核領域がみられグラム陰性菌に特徴の細胞壁が認められた.F. necrophorum subsp. funduliforme が持つ細胞外顆粒は認められなかった (図4. TEM. ).
[診断]ウシのFusobacterium necrophorum subsp. necrophorum による壊死性舌炎
[考察]長桿菌の病理組織学的,免疫組織化学的並びに超微形態学的特徴は,F. necrophorum subsp. necrophorum のそれらと一致していた.本症例は,病変の局在,大きさ,病理組織像並びに原因学的にアクチノバチルス症(木舌),放線菌症,ノカルジア症およびブドウ球菌症とは明らかに異なった.壊死病巣において多数のF. necrophorum subsp. necrophorum が増殖していることより,この致死性の壊死性舌炎はFusobacterium 感染と密接に関連があると考えられた.(芝原友幸)
[参考文献]Garcia MM et al. Can J Vet Res, 56: 318-325(1992).
Yeruham I et al. Berl Munch Tierarztl Wochenschr 111: 211-213(1998).