No.819 アカゲザルの大腸        岐阜大学


[動物]アカゲザル,雄,1歳.
[臨床事項]本例はSIV感染実験に用いたサルのなかの1例.SIVmac251を静脈内接種後,約8ヶ月頃から削痩を示したため,接種後9ヶ月で安楽死させ剖検した.
[剖検所見および参考組織所見]動物は栄養状態不良の若齢個体.全身のリンパ節は,軽度から中等度の腫大を示した.脾臓は,中等度の脾腫を示し,割面では濾胞は明瞭であった.肺は,全葉とも淡赤褐色を呈し,硬度を増していた.胃および腸管は全体に内容に乏しく,盲腸と結腸では中等量の液状便が認められた.参考組織所見としては,肺は組織学的に重度のカリニ肺炎と診断された.また,胆管,膵管,空腸,結腸および気管に種々の程度のクリプトスポリジウム感染症が認められた.脾臓およびリンパ節におけるリンパ濾胞過形成および複数の日和見感染症の関与から,AIDSが疑われた.
[組織所見]提出標本では,大腸(結腸)粘膜の上皮細胞に約20〜50μmの大型核内封入体がしばしば認められた(図1).封入体の形は円形から卵円形で好塩基性から両染性を示した.大型のものでは,細胞質を含め細胞のほとんどは,封入体で置き換えられていた.封入体周囲には細胞反応に乏しく,固有層に軽度なリンパ球浸潤がみられるのみであった.同封入体は,胃および小腸粘膜上皮にも,しばしば認められた.抗アデノウイルス抗体による免疫染色では,封入体に一致して,陽性反応が認められた(図2).電顕的には,感染細胞の核内に,結晶状配列を示すウイルス粒子が多数認められ,その形状および大きさからアデノウイルスとされた(図3).
[診断]大型の核内封入体形成を示す腸アデノウイルス感染症
[考察]サルにおいては,健康体もアデノウイルスを保有し,AIDSなどの免疫能低下に伴い発症し,呼吸器病変,下痢,壊死性膵炎が現れる.ほとんどの場合,封入体の大きさは感染上皮細胞の核の大きさを超えることはない.本症例のように大型の封入体形成を示す原因としては,ウイルス側の要因と宿主の免疫状態が考えられるが,詳細は明らかでない。本症性のように大型封入体が上皮細胞に認められる場合,アデノウイルスを原因の一つとして,考慮する必要がある.(柳井徳磨)
[参考文献]Umemura T. et al. Lab Anim, 19: 39-41(1985).