No.821 イヌの肝臓          北里大学


[動物]イヌ,雑種,雄,15歳.
[臨床事項]半年前より老化による衰弱を認め,加療(心臓薬,肝臓薬)していたが,今年2月より血尿,食欲低下を発現.検査により肝臓に腫瘍を発見.飼い主の希望により摘出術を実施したが,手術中に死亡.なお,病理解剖は実施されなかった.
[肉眼所見]開腹時に肝門部に大豆大から最大手拳大の白色髄様腫瘤が複数存在していた.腎臓でも拇指頭大の同質の腫瘤を一個認め,両臓器よりホルマリン浸漬材料を採取した.なお,その他の臓器,体幹には腫瘤の存在は認められなかった.
[組織所見]腫瘤組織は細胞密度の高い領域と低い領域が混在していた(図1).それら両領域の特徴は,細胞密度の高い領域:毛細血管を中心に小型類円形状の細胞が密に配列し,細胞間の線維性結合組織量はほとんど存在していなかった(図2).細胞密度の低い領域:細胞質が狭小な紡錘形ないし星形の細胞が網目状に疎に配列.細胞間隙は拡大し線維性結合組織が明瞭な部分,あるいは線維をほとんど欠く部分を連続性に混在していた.細胞間基質にはトルイジンブルー染色(pH 7.0)でメタクロマジーを示す軟骨基質様の部分(図3)や線維への石灰沈着部分が散見された.さらに,弱好酸性で明瞭な細胞質を有して多肉,かつ核異型を示す細胞の増殖巣も腫瘤内に希に認められた.腫瘤と肝臓実質は明瞭に区画されていたが,肝実質の諸処において同様の腫瘍細胞が類洞内に浸潤増殖し種々の程度に肝細胞索を圧排していた.それら部位の腫瘍細胞間では線維性基質を欠いていた.出題肝臓腫瘤およびその他の肝腫瘤,腎腫瘤においても同様の組織像を呈していた.
[診断]類骨様の組織の見られた悪性腫瘍
[考察および討議事項]明瞭な軟骨,骨の形成は指摘されなかったが,細胞間基質が類骨様ないし軟骨様で一部に石灰化がみられたことと上皮性の細胞成分を欠いていたとして,出題者は肝臓原発の骨肉腫とした.しかし,基質を明らかな類骨とする事は出来ず,また腎芽腫,肝芽腫であるとの意見が出された.さらに,免疫染色を実施しておらず細胞の由来を判定出来なかったために,上記の診断名になった.(小山田敏文)