No.822 ラットのリンパ節と肝臓 日本生物科学研究所


[動物]ラット,Crj:CD(SD)IGS,雌,109週齢.
[臨床事項]本症例はがん原性試験の背景資料作成のため,104週間無処置で当所のバリアーシステム下飼育室において飼育された.試験97週から鼠径部に皮下結節が,101週から鼠径部皮毛汚染が観察された.104週間の飼育後に麻酔下で放血,剖検に供された.
[肉眼所見]肝臓に径1 〜 3 mm大の散在性灰白色斑,脾臓の腫大,腎臓の腫大および褪色,腸間膜リンパ節,内腸骨リンパ節および右側膝窩リンパ節の著明な腫大,胸腺の萎縮,小腸から大腸にかけての腸壁の肥厚などが観察された.
[組織所見]リンパ節では,一部の髄洞を残して既存の組織構築は腫瘍細胞のび漫性増殖により置換されていた(図1. HE染色).腫瘍はリンパ球様細胞から成るがその形態は多様で,1 ないし数個の明瞭な核小体をいれ卵円形から多形性の明るい核をもち豊富な細胞質を有する中型から大型の細胞,クロマチンの豊富な小型円形核をもち好塩基性の少量の細胞質をもつ小型の小リンパ球様細胞から成っていた(図2. HE染色).また,腫瘍組織の中には大型で核小体が非常に良く目立つ異型核をもち,ときにミラーイメージを示す2 核を有する異型細胞(矢印)が散見された(図3. HE染色).増殖性細胞核抗原(PCNA)免疫染色により,中型から大型の異型リンパ球様細胞に増殖活性が高いことが示された(図4. PCNA免疫染色).電顕的に,腫瘍細胞の細胞質には豊富なポリゾームおよび遊離リボゾーム,中等量の円形ミトコンドリア,少量の粗面小胞体およびゴルジ装置がみられ,その特徴はBリンパ芽球あるいは濾胞中心細胞に類似していた.肝臓では,中型から大型の異型リンパ球様細胞がグリソン鞘中心性に増殖し,組織球,小数の小リンパ球あるいは好酸球を伴っていた.腫瘍は脾臓では白脾髄中心性に,肺では小血管および気管支周囲性に浸潤増殖しており,全身諸臓器では主に間質組織において浸潤性に増殖していた.胸腺は萎縮しており,一部に腫瘍細胞の転移巣がみられたが,骨髄には腫瘍細胞の浸潤増殖は認められなかった.
[組織診断]ラットの多形型リンパ腫(ホジキン病様細胞を伴う)
[考察]腫瘍の細胞形態の多様性および増殖中心から,ラットのリンパ腫分類ではBリンパ球由来の多形型リンパ腫と診断された.しかしながら,増殖細胞が一様な形態を示さず,ホジキン病でみられるようなHodgkin細胞あるいはReed-Sternberg細胞に類似の細胞を含み,小リンパ球,組織球あるいは好酸球を伴って増殖している点,現在ホジキン病細胞がリンパ節胚中心の幼弱Bリンパ球由来であるとされていることから,ホジキン病との類似性を考慮し「ホジキン病様細胞を伴う」を追記した.(渋谷一元)