No.824 ハンドウイルカの肝臓 鳥取大学
[動物]ハンドウイルカ,メス,成獣.
[臨床事項] 2000 年 3 月某水族館で死亡し,病理解剖に処された.後日,主要臓器のホルマリン固定材料が当教室に送付された.
[剖検所見および参考組織所見]肝臓は全葉に径 5 mm 大に至る膿瘍が多発し,門部には径9 X 5 X 1 cm 大の境界不明瞭な黄白色膿瘍が 1 個認められた.脾臓には脾全体の約 3 分の 2 を占める黄白色膿瘍が見られた.肺左葉辺縁部に小豆大に至る膿瘍が密発し,左葉中央部には径15 X 8 X 7 cm大の黄白色膿瘍1 個認められた.脾臓および肺に見られた膿瘍の組織像は提出標本と概ね同様であった.
[組織所見]図 1 の矢頭に示されるような化膿性肉芽腫が肝全域に多発していた.病巣内には細菌塊を伴い,好中球やマクロファージの浸潤が多数認められた.また,病巣を取り囲む結合組織の増生も観察された.好塩基性に染色される多数の球菌は,周囲を好酸性のときに均質な物質によって取り囲まれていた(図2).グラム染色でこれらの細菌は陽性であった(図3).グラム染色陽性であったことから Staphylococcus aureus 感染を疑い,抗 Staphylococcus aureus 抗体を用いた免疫染色を行ったところ,塊状を呈する細菌塊の他,マクロファージ内の菌体も陽性反応を示した(図4).
[診断]Multiple pyogranuloma due to Staphylococcus aureus infection (Botryomycosis)
[考察]海洋哺乳類における Botryomycosis または Staphylococcus aureus 感染症の報告は少ない.細菌は分離されなかったが,免疫組織化学的検索により本症例は Staphylococcus aureus 感染であることが示された.Botryomycosis は「細菌,真菌,寄生虫の周囲に好酸性の沈着物を伴う化膿性肉芽腫性炎」と定義付けられている.本症例は Botryomycosis に特徴的な細菌塊を伴う化膿性肉芽腫性炎であったことから上記のように診断した.(澤田倍美)
[参考文献] Wilson, T. M. and Long, J. R. Journal of Wildlife Diseases 6: 155-159 (1970).
Ketterer, P. J. and Rosenfeld, L. E. Australian Veterinary Journal 50: 123 (1974).
Colgrove, G. S. and Migaki, G. Journal of Wildlife Diseases 12: 271-274 (1976).
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