No.825 マウスの腎臓  食品農医薬品安全性評価センター


[動物]マウス,B6C3F1 系,雄,109 週齢.
[臨床事項]長期毒性試験の対照群の1 例.104 週齢より,腹腔内の腫瘤として触知されていた.
[剖検所見]109 週齢に計画解剖された(解剖直前体重は36.2 g).左腎臓に28 X 18 X 16 mmの灰色結節を確認した.その他,脾臓と胸腺の萎縮,前胃の白色斑,包皮腺の結節,ハーダー腺の肥大,胸椎の白色結節が観察された.腎臓重量(左右)は5.79 g.
[組織所見]腫瘤は腎臓皮質の大部分を占め,圧排性,結節状の増殖を示した.周囲組織との境界は明瞭で,被膜の形成も認められた.境界部では正常組織への浸潤(図 1)やリンパ球浸潤も見られ た.腫瘤中心部では間質の水腫を伴う血管の拡張が観察されたが,壊死像は認められなかった.腫瘤は間質の乏しい多数の胞巣で構成され,胞巣内では腫瘍細胞が充実性に増殖(図 2,銀染色).腫瘍 細胞は好塩基性で,異型性は少なく,立方形の細胞質と円形または類円形の核を有し,ほぼ均一の大きさであったが,大小不同を示す細胞も混在した.核分裂像も散見された.PAS 染色で微絨毛の構 造は確認できなかった.免疫組織化学的所見では,PCNA は腫瘍細胞において高い増殖活性を示し,WGA,Con-A 陽性(細胞質顆粒状)を示した.電顕所見において基底膜,デスモゾーム,刷子縁様 構造,細胞膜陥入構造,豊富なミトコンドリア,rER,グリコーゲン顆粒,ライソゾーム内の同心円状構造が確認された(図 3).
[診断]腎癌(Renal tubule carcinoma)
[考察]ラット,マウスの腎癌は稀な腫瘍とされ,診断基準においては出血・壊死が特徴の一つとされている.提出症例には1) 明らかな出血・壊死像はない,2) 細胞異型性や核分裂像が少ない,等の 点が従来の診断基準とは異なる腫瘍と考えられた.本例は電顕所見で刷子縁様構造が確認されたことから,近位尿細管由来が考えられた.マウス腎腫瘍をラットと比較すると,マウスでは上皮性由来が 多いが,ラットでは腎間葉性腫瘍や腎芽腫などの間葉系腫瘍,胎児性腫瘍の発生が見られる点が種差として挙げられる.マウスではラットと同様に上皮性腫瘍は近位尿細管由来が多く,好塩基性の染色 性を示す腫瘍は近位尿細管由来が多いことも知られている.マウスでは間質の血管がラットよりも発達していることが多く,そのため,出血,壊死が少ないと考えられた.(細井理代)