No.826 イヌの生殖腺          宮崎大学


[動物]イヌ,パグ,雌(飼い主の申告),8 ヶ月齢,6.3 Kg.
[臨床事項]外観上雌様で雄様の行動を示す.雌の外陰部から正常雄に近い骨を有する陰茎が突出し,尿道下裂様の形態を示した.術時観察により肉眼で生殖腺と中腎管(子宮)及び中腎傍管(精管)が見られ,摘出された.白血球の染色体検査はXX であった.
[生殖腺以外の参考組織所見]子宮内膜,筋層,外膜等の構造を有する子宮と陰茎海綿体,陰茎骨,血管を有する陰茎を認めた.
[組織所見]生殖腺は通常より厚めの結合織により区画された精細管を有する精巣であった(図 1,HE).基底膜側に細胞質に空胞を示すセルトリ細胞が配列していたが,胚細胞は見られなかった.間質には円形核に広い好酸性細胞質を示すLeydig 細胞が分散して多数に存在した(図 2,HE).左側には皮質の一部に紡錘形細胞からなる卵巣皮質と濾胞様の構造を有する卵巣に類似する組織が観察されたが,卵や明瞭な高次の発達した卵胞は見られなかった(図 3,HE).卵巣の皮膜の結合織も通常より厚くLeydig 細胞が多数分散してみられた.その他,右側では精巣上体・静脈嚢が観察された.なお,左側でも未発達の静脈嚢が観察された.
[診断名]XX の(無精子)精巣.(右側:XX 雄の精巣,左側:XX 雄の痕跡卵巣を有する精巣)
[考察]生殖腺は精巣で,組織学的に精管,陰茎,子宮が見られた.生殖腺の精巣への分化はY 染色体のSry 遺伝子がLeydig 細胞に作用し雄へ分化するといわれる.雌は原始胚細胞が卵巣皮質へ移動し,卵巣皮質の上皮細胞に入り高次卵胞へ分化し卵巣が発達するとされる.それゆえ精卵巣との意見もあったが症例は卵が見つからなかったために「痕跡」とした.XX の精巣と精卵巣を有する真性半陰陽は同一家系に系統的に観察されることが知られている.鑑別は胚細胞の有無にあると思われる.