No.831 カニクイザルの下垂体    新日本科学


[動物]カニクイザル,雌,年齢不詳.
[臨床事項]本症例は,某薬物2週間経口投与毒性試験の投与終了時剖検のものである.投与期間中,同動物に特に著変はみられなかった.
[剖検所見]剖検では,下垂体に嚢胞様物が見られ,その重量も正常の下垂体と比べて約 2 倍程度(167 mg)であった.なお,下垂体でみられた本病変は今回 1 例のみの発生であり,薬物投与との関連はないものと思われた.
[組織所見]下垂体前葉と後葉組織の周囲に腫瘤が存在し,前葉組織内に浸潤増殖していた.HE染色標本では,腫瘤は大小の担空胞細胞からなり,多形性の核が比較的多数集中している所には小空胞が密在した.また,エオジン好性の基質がみられ,それらの周囲には大きな空胞が配列し,核が散見された(図 1).PAS 陽性顆粒が基質部分に多く,また少数の小空胞はAlcian blue微弱陽性を示した(図 2,Alcian blue染色).しかし,大多数の空胞は,PAS およびAlcian blue 染色陰性であった.免疫染色の結果,担空胞細胞の核はPCNA 強陽性で,増殖能亢進が示唆された.その他,S-100,GFAP に陽性,Vimentin 陰性であった.本例では,残念ながら,下垂体全体をパラフィン包埋した為に,凍結切片脂肪染色および電子顕微鏡試料の作製が出来なった.また,ルーチンの解剖の為に,腫瘍の原発部位などを確認出来なかった.
[診断]カニクイザル下垂体の脂肪肉腫(宿題:脊索腫との類症鑑別を実施する)
[考察および討議事項]発表後の質問で,脂肪染色の必要性を強調されたが,本例では材料が小さく遺憾ながら実施出来なかった.また,本例は脊索腫に酷似すると思われるという質問があった.組織形態学的に,ヒトの脂肪肉腫,軟骨肉腫および脊索腫は極めて類似しており,類症鑑別は容易でないと報告されている.討議の後,座長から再度検討する様に言われ宿題となった.文献にみる電子顕微鏡的研究報告では,脂肪肉腫には,種々の分化程度を示す脂肪芽細胞がみられる.また,脊索腫では,担空胞細胞にグリコゲン粒子に囲まれた大小不規則な空胞,粗面小胞体に囲まれたミトコンドリア(RER-ミトコンドリア複合体),発達したゴルジ装置,微細管束を認め,デスモゾーム様細胞接着装置がよく発達していることが報告されている.従って,本例の最終診断には,戻し電顕による検索が決め手になると思われる.その電子顕微鏡的検索を実施し,新知見が得られたならば,再度報告をさせて頂きたい.(来原兄忠)