No.832 イヌの大腿骨        摂南大学


[動物]イヌ,雑種,避妊雌,4歳.
[臨床事項]2001.1.16に一週間前より前肢をわずかにかばうように歩行するとの主訴で来院.疼痛がないため非ステロイド系抗炎症剤を投与し経過観察.2001.2.10に症状の軽減がないため再来院.レ線で,右大腿骨骨幹部に骨膜増生,骨融解を示唆する像を認めた.骨腫瘍を疑い2001.2.13に骨生検を実施(本標本).2001.2.20以降イトラコナゾール投与による加療開始に全身状態に異常はないが,大腿部の骨病変にも変化なし.2001.9.25左後肢をかばうように歩行するとのことで来院.左足根部の腫脹が見られ,レ線で,左下腿骨骨幹部と踵骨に骨膜反応を認めたため,2001.9.28に骨生検を実施(本標本と同様の病変を確認).
[組織所見]大腿骨内に形成された肉芽腫性炎症性病変で,骨融解を伴っていた(図1).褐色調の厚い細胞壁を有する多数の酵母様真菌を中心に,真菌を貪食したマクロファージや多核異物巨細胞の浸潤を認めた(図2).HE 染色標本では明らかな菌糸形成は稀にしか検出されなかったが,PAS 反応やグロコット染色では多数の酵母様真菌とともに菌糸形成を容易に見いだすことができた(図3,PAS).また,真菌はFontana-Masson染色により黒色に染色され,メラニン色素であることが明らかとなった(図4,Fontana-Masson).
[診断]フェオヒフォマイコーシス
[考察]フェオヒフォマイコーシスは菌糸形成を伴う黒色真菌感染症で皮膚型(膿瘍,嚢腫),全身型(脳膿瘍,真菌性肉芽腫)に分類される.色素はメラニンである.原因菌は腐生菌ないし植物病原真菌で不完全菌類(Deuteromycetes)に分類され,101 種,57 属が報告されている.代表的な菌としてAlternaria alternata, Bipolaris spicifera, Exophiala jeanselmei, Phialophora gougerottiがある.感染経路は創傷,特に木片による創傷と考えられている.犬,猫では長期間のグルココルチコイド投与,エリキア感染,白血病による全身性病変形成が報告されている.鑑別診断としては同様な色素産生真菌であるクロモマイコーシスがあげられる.クロモマイコーシスは褐色球形で厚い細胞壁を有する酵母様真菌による感染症で,通常皮膚に化膿性肉芽腫性炎症をおこす.菌糸形成を欠き,病変が皮膚に限局することから鑑別される.集会では骨病変を形成する大型酵母様真菌であることからブラストミセスとの意見があったが,菌糸形成,メラニン色素の存在から否定できる.(尾崎清和)
[参考文献]Infectious diseases of the dog and cat, W.B. Saunders Co.