No.833 ネコの骨格筋 日本大学
[動物]ネコ,雑種,雄,1 歳4 ヵ月齢.
[臨床事項]後肢跛行を主訴に某動物病院に来院.後肢の疼痛と硬縮,削痩が認められた.第52病日目に日本大学動物病院に搬入.血液生化学的検査でCK の著明な上昇,神経学的検査では後肢の姿勢反応消失を認めた.また X 線検査では右後肢の大腿部,左後肢の大腿部および膝関節周囲領域などに骨様陰影が確認された.さらにCT 検査において右後肢の半膜様筋および半腱様筋の間,左後肢の半膜様筋,内転筋および大腿二頭筋の間と腓腹筋周囲に骨様陰影が確認された.全身麻酔下にて左右後肢の異常な骨様組織の生検を実施,病理組織学的検索を行った.
[肉眼所見]既存する骨組織とは離れて管状骨の形成が認められた.骨組織の周囲は薄い結合組織により被われ強く癒着していたが,境界は明瞭であった.割面より赤色髄が確認された.新生骨周囲の骨格筋はやや退色していた.
[組織所見]様々な発達段階の骨組織が観察された.骨梁を有する成熟した骨組織の内部には骨髄が形成され,造血を示唆する巨核球や骨髄球を含んでいた(図 1).また成長過程の部分では,紡錘形の細胞が束状に配列し,それは豊富な線維性結合組織の層そして軟骨組織,骨基質へと移行する像,いわゆる軟骨内骨化を示していた(図 2).結合組織の増生は隣接する骨格筋細胞間におよび,筋細胞は萎縮,消失に陥っていた.炎症細胞の浸潤は確認されなかった.
[診断]ネコの進行性化骨性線維異形成(Fibrodysplasia Ossificans Progressiva; FOP)
[考察]提出標本は画像診断学的および病理学的にFOPと確定診断された症例で,骨格筋に関わる結合組織における進行性の異所性骨化を特徴とする.骨化の発生部位を考察する上で,紡錘形細胞が筋膜あるいは筋内膜,筋周膜のどこを起源とするのかは,確認できなかった.ネコのFOP の報告は僅かであり,遺伝性疾患という確証は未だ得られていないが,ヒトにおいてはBone morphogenetic protein-4に関わる骨誘導の過程に寄与する遺伝子の変異と考えられている.(渋谷久)
[参考文献]Valentine, B.A. et al. J Vet Intern Med 6: 335-40 (1992).
Warren, H.B. et al. Vet Pathol 21: 495-9 (1984).
Waldron, D. et al. J Am Vet Med Assoc 187: 64-5 (1985).
Norris AM et al. J Am Anim Hosp Ass 16: 659-663 (1980).
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