No.834 ウシの頚背部腫瘤     帯広畜産大学


[動物]牛,ホルスタイン種,雌,5 カ月齢.
[臨床事項および剖検所見]生後1 カ月齢時より頚背部にソフトボール大の腫瘤が認められた.その後,腫瘤は徐々に大きくなり,骨様の硬結巣も出現してきたため,5 カ月齢時に病理解剖を行った.剖検では,後頭部から第7頚椎背側にかけて,32 X 20 X 14 cm 大の巨大硬性腫瘤を認めた.腫瘤は乳白色〜褐色を呈し,左側では僧帽筋・上腕頭筋の,右側では僧帽筋の下部に認められた.深部では,腫瘤は頚椎椎体上部および側部の諸筋を巻き込んでいた.腫瘤割面では,白色(骨様),乳白色,およびやや透明を呈する領域が混在し,筋組織は極僅かに残存するのみであった(提出標本A).また,巨大腫瘤辺縁部では,小指頭大に至る白色結節が筋膜組織および周囲結合組織内に多数観察された(提出標本B).
[組織所見]標本Aでは,弱好酸性微細顆粒状を呈する,あるいは好酸性粗大顆粒を有する腫瘍細胞の多結節性敷石状増殖,著しい結合組織の増生,および石灰沈着(C)が特徴的であった(図 1).腫瘍細胞は,大小不同を示し,類円形〜楕円形核を有していた(図 2).また,時に2核の腫瘍細胞も認められた(図2,矢印).腫瘍細胞間には,好酸球も散見された(図2,矢頭).腫瘍細胞はトルイジン青で異染性を示す細胞質顆粒を豊富に持ち(図 3),これら顆粒はヘパリンおよびトリプターゼ(図 4)陽性であった.同様の腫瘍細胞は,増生結合組織間においても散見された.加えて,増生結合組織内では異型性を欠く,骨組織の形成も観察された(図 5).標本Bにおいても,Aとほぼ同様の組織像が観察されたが,骨形成は認められなかった.また,腫瘍細胞の細胞質内顆粒のHE染色性はAに比して多彩で,好塩基性を呈するものも認められた(図 6).また,有糸分裂像も少数ながら観察された(図 6,矢印).
[診断]子牛にみられた骨化生を伴う肥満細胞腫
[考察]肥満細胞腫は,牛では比較的発生の稀れな腫瘍であり,その大半は皮膚腫瘍(多発性のことが多い)として報告されている.腫瘍の平均発生年齢は5 〜 6 歳であるが,子牛での発生も報告されている.結合組織増生および石灰沈着は高率に出現するとされているものの,骨化生を伴う肥満細胞腫の報告はなく,非常に稀れな症例と考え上記診断とした.骨化生が出現した原因としては,腫瘍の発生部位に関係する可能性(筋組織への波及)が考えられたが,特定には至らなかった.(古林与志安)