No.835 ハムスターの下顎部皮下腫瘤  三菱安科研


[動物]ゴールデンハムスター,約2歳,雄.
[臨床事項]背部皮膚の脱毛を主訴として某動物病院に来院した際,担当獣医師により下顎部皮下の腫瘤が発見された.後日,腫瘤の摘除が行われ,そのホルマリン固定材料が当所に持ち込まれた.脱毛は毛包虫寄生によるものであった.血液・血清学的検査は実施されていない.
[固定後組織の肉眼的所見]腫瘤は2 X 1 X 1 cm 大,薄い被膜によってほぼ全体を被われており,割面は乳白色充実性で,一部に出血巣が認められた.
[組織所見]腫瘤内では好塩基性ないし両染性の豊富な細胞質を持つ円形,類円形あるいは多角形細胞が充実性に増殖しており,これら細胞が島状に増殖する部分もあった.鍍銀染色を施すと,細い好銀線維が島状構造を不連続性に囲んでいたが,個々の細胞間に好銀線維は認められなかった.増殖細胞は境界明瞭で,偏在する類円形ないし楕円形核を持ち,しばしば核に隣接して淡好酸性に染まる明暈が認められた(図1).大型核,二核および多核の細胞も頻繁に認められ,分裂像も比較的高頻度に認められた.腫瘤辺縁部には下顎腺の腺房と導管構造が認められた.過ヨウ素酸シッフ(PAS)反応を施すと増殖細胞はPAS反応陰性であり,細胞質が強陽性を示す腺房細胞とは明瞭に区別された.増殖細胞の細胞質はメチルグリーン・ピロニン染色でピロニン陽性であった.免疫組織化学的手法を用いた検討では,抗ハムスター IgG 抗体(図2)および抗ヒト・ラムダ鎖抗体に対して増殖細胞の細胞質が陽性反応を示した.抗ケラチン抗体に対しては陰性で,下顎腺の導管上皮のみが陽性反応を示した.超微形態学的に,増殖細胞では低電子密度内容物を溜めて拡張した粗面小胞体の発達が顕著であった(図3).細胞間に特殊な結合装置は認められなかった.
[病理組織学的診断]髄外性形質細胞腫
[考察]本症例については骨髄を含む全身組織の検査は行われていないが,形質細胞にきわめて類似した形態と性質を持つ単一の細胞が増殖し腫瘤を形成していることから,当該腫瘤に対して上記のように診断した.しかし,当該材料から発生母地となる組織の確定はできなかった.また,フロアからゴールデンハムスターでは下顎部皮下に当該腫瘍の発生が多いとの意見があった.(岡崎欣正)