No.836 イヌの胸部前縦隔腫瘤

東京大学


[動物]イヌ,柴,雄,12歳.
[臨床事項]2000 年 12 月東京大学ベテリナリーメディカルセンター受診.貧血と体表リンパ節の腫大が認められた.X線検査により胸部前縦隔に腫瘤を確認.血液塗抹と腫大リンパ節の細胞診標本に異型リンパ球が多数認められたためリンパ腫と診断された.抗癌剤を投与したが呼吸状態の悪化が続き,12 月 19 日死亡.4 時間後に剖検.
[剖検所見]前縦隔に 11 × 15 cm の桃白色,充実性腫瘤を認めた.肝は腫大,脆弱,褪色,径1〜2mmの白色結節散見.腎には径5mm の白色結節数個,貧血梗塞数カ所.腸間膜リンパ節軽度腫大.
[組織所見]前縦隔腫瘤は,1)小型立方形細胞の索状増殖巣(索状部)(Fig.1),2)線毛上皮から成る管状、嚢胞状構造(管状部)(Fig.2),3)顆粒状細胞質を持つ類円形細胞の敷石状増殖部(敷石状部)(Fig.3)及び4)異型リンパ球の瀰漫性浸潤部(異型リンパ球浸潤部)(Fig.4),の4部分から構成されていた.索状部及び管状部の細胞は Cytokeratin に陽性,PCNA に弱陽性.敷石状部の顆粒状細胞は PAS 染色で弱い陽性像を示し,電顕にて細胞質に小型の Myelin-like-body が多数見られた.Cytokeratin, Vimentin, Desmin, S-100, SMA, Lysozyme, NSE, Chromogranin A, PCNA には陰性であった.腫瘍組織に瀰漫性に浸潤している異型リンパ球は T-Cell のマーカーである CD 3 弱陽性,PCNA 強陽性.B-Cell のマーカーも一部で陽性.腎臓,肝臓,リンパ節,脾臓および骨髄で見られた異型リンパ球は T-Cell,B-Cell いずれのマーカーについても陰性.
[診断]顆粒状細胞の増殖巣とリンパ腫細胞の浸潤増殖が認められた胸腺腫
[考察]索状部と管状部の所見から胸腺腫と診断した.顆粒状細胞増殖部(敷石状部)は胸腺腫のClear-cell type,または顆粒細胞腫の可能性が考えられたが,今回行った検索からは決定できなかった.前縦隔腫瘤で認められた異型リンパ球は胸腺腫組織内に全身性リンパ腫症の腫瘍細胞が流入したものと考えた.(福岡鮎美)
[参考文献]
1. Atwater, S.W. et al. 1994. JAVMA 205: 1007-1014.
2. Mettler, F. et al. 1984. J. Comp. Pathol. 94: 315-317.
3. Patnaik, A.K. et al. 1993. Vet. Pathol. 30: 176-185.