[動物]ゴールデンハムスター,雌,約 7 ヶ月齢.
[臨床事項]本症例は元気・食欲の低下および下痢を主訴として某動物病院に来院した.触診にて腹腔内にウズラ卵大の腫瘤が触知された.試験開腹を行ったところ腫瘤は消化管を巻き込むように存在し,一部は壊死に陥っていた.腫瘤は消化管と共に摘出され,そのホルマリン固定材料が当所に送付された.なお,本例は術中に死亡したが,腫瘤以外の器官・組織は採取されなかった.血液・血清学的検査は実施していない.
[固定後組織の肉眼的所見]腫瘤は腸間膜に一塊となって存在し,小腸の一部と癒着していた.腫瘤の割面は灰白色充実性で,壊死部は帯状に乳白色を呈していた.
[組織所見]腫瘤では主に円形の核を有し,細胞質に乏しく核/細胞質比の高い細胞(以下,腫瘍細胞)が充実性に増殖しており,その間には形質細胞様の細胞も認められた(図 1).なお,腎形,輪状,分葉形の核を有する細胞もしばしば認められた(図 2)が,これらの細胞は腫瘍細胞とは異なりペルオキシダーゼ染色陽性を示した(図 3)ことから,顆粒球系の細胞と考えられた.また,マクロファージも認められ,細胞質には細胞残渣や空胞が認められた(図 2).超微形態学的に,腫瘍細胞の細胞質には豊富な遊離リボゾーム,少数のミトコンドリアと粗面小胞体が認められた(図 4).腫瘍は腸間膜に主座していたことから,腸間膜リンパ節から発生したものと考えられた.壊死部ではグロコット染色で黒色に染まる細線維状の桿菌が認められた.本菌はグラム染色およびWade-Fite-松本法の抗酸菌染色に陰性であった.超微形態学的には,短軸方向の長さが 0.3〜0.7μm で,核内は明るく構造に乏しいが,細胞質は電子密度が高くリボゾームが豊富に認められた(図 5).本菌はFusobacterium necrophorumの超微形態像と酷似していた.
[診断]Fusobacterium necrophorumの感染を伴う腸間膜リンパ節の悪性リンパ腫
[考察]本症例では腫瘤内に顆粒球系細胞やマクロファージが多数混在していた.ハムスターのリンパ腫では腫瘍細胞が形質細胞へ分化すること,組織球,単球や多核細胞が混在することが知られている.また,ハムスターのリンパ節では髄外造血が良くみられるとの意見やパポバウイルスによって誘発されるリンパ腫の形態像に類似しているとの意見を頂いた.パポバウイルス誘発性のリンパ腫は主に肝臓から発生すると報告されているが,本症例の肝臓では肉眼的に異常はみられなかった.また,本症例で認められた帯状の壊死はFusobacterium necrophorumの感染によって起きたものと考えられた.(菅野剛)
[参考文献] 1. Fey, V. F. et al. 1970. Arch. Geschwulstforsch. 36: 10-18.
2. Shibahara, T. et al. 2002. J. Vet. Med. Sci. 64: 523-526.
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