[動物]鶏,ブロイラー,雄,3週齢.
[臨床事項]トリアデノウイルス 沍Q(AAV-JM株)106.5 TCID50/羽を 2 週齢のコマーシャルブロイラーに経口接種し,3,6,9,12,15,20 日後に剖検を行った.感染実験期間中に臨床症状は特に認められなかった.(提出標本は接種 6 日後に剖検した鶏の筋胃)
[剖検所見]筋胃において,接種 3 日後には著変が見られず,6 日後から20 日後までびらんが認められ,12 日後が最も重度であった.筋胃以外の臓器には特に著変は認められなかった.
[組織所見]接種 6 日後の筋胃に肉眼的なびらんが見られた部位において,粘膜(筋胃腺)及び固有層には偽好酸球の著しい浸潤やリンパ球,マクロファージの浸潤があり,固有構造がほとんど消失する化膿性炎が認められた(図 1).このような炎症性細胞浸潤は固有層に主座していたが,一部は筋板や粘膜下組織にもわずかながら認められた.固有層の炎症部位に残存する粘膜上皮細胞(筋胃腺上皮細胞)には,full 型やハローを有する好塩基性から好酸性の核内封入体が存在した(図 2).また,炎症細胞や線維素等が混在する壊死退廃物がコイリン層との境界部に貯留し,コイリン層の層状構造も乱れていた.びらん部位下層の筋層の血管周囲には,リンパ球等の単核細胞浸潤と水腫が見られたが,びらんの下層以外には認められなかった.トリアデノウイルス沍Q(血清型1,4,8)に対する抗体を用いた免疫染色では,核内封入体及びコイリン層に混存する核様物が陽性であった.
[診断]トリアデノウイルス沍Q経口接種による封入体筋胃炎(いわゆる鶏封入体性筋胃びらん)
[考察および討議事項]提出標本はいわゆる「鶏封入体性筋胃びらん及び潰瘍」と称されている病変であるが,組織標本に対する適切な診断名として封入体筋胃炎とした.SPF レイヤー鶏を用いた感染実験において,偽好酸球浸潤は重度ではないとされており,本症例は筋胃粘膜上皮細胞へのウイルス感染によるコイリン物質の産生低下が生じた後に細菌の二次感染が発生したものと推察した.また,本ウイルスを静脈内接種すると筋胃粘膜上皮細胞及び膵外分泌細胞に核内封入体が形成されたことから,筋胃だけではなく膵臓にも親和性があるウイルス株であると考えられた.
最後に,抗体を御分与いただいた独立行政法人農業技術研究機構動物衛生研究所の中村菊保室長に深謝いたします.(三好宣彰)
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