No.842 イヌの肝臓腫瘤

北里大学


[動物]イヌ,雑種,雄,14 歳.
[臨床事項]発咳により診察を受け肺腫瘍を発見され,約 1 年間にわたり(養子)免疫療法を受ける.発咳症状は一進一退,一般状態は良好であったが,最終的には状態が悪化して尿毒症を併発し安楽殺される.胸・腹腔臓器のみが提供された.
[肉眼所見]肝臓外側右葉にうずら卵大黄色調腫瘤数個が癒合性に形成.その割面は限界明瞭でやや硬固な結節(組織学的に結節性増生)とゼリー状を呈する組織(写真 1,ホルマリン固定後)が混在していた.提出標本と同質の米粒大〜ウズラ卵大病巣が肝臓全域にわたって散在していた.
[組織所見]結節は被膜を有さず肝組織と連続して存在していた.結節辺縁域はわずかに線維成分が多く,白血球の遊走を伴う不規則な管腔様構造を形成する上皮細胞よりなっていた(写真 2).これら細胞は Cytokeratin (AE1/AE3) 陽性であった(写真 3).結節中心に向かうにつれて細胞成分は極めて乏しく紡錘形細胞(AE1/AE3陽性)が散在するのみとなり,間質は繊細な線維をわずかに含む不染性の水腫性空隙と化していた.なお,大型結節部以外でもグリソン氏鞘からの線維化,胆管炎,胆管増生,水腫性粗鬆化を示す小巣が散在していた.
[診断]重度の水腫を伴った肝線維症
[考察]結節内に存在する Cytokeratin (AE1/AE3) 陽性上皮細胞を胆管上皮とし,かつ肝細胞が存在しないことから,提出者はグリソン氏鞘から発した線維症の一病態と考えた.しかしながら,肝細胞由来の腫瘍とする複数の意見があり,上記診断は却下され再検討することとなった.(小山田敏文)