No.849 イヌの大脳腫瘤

大阪府立大学


[動物]犬,ゴールデンレトリバー,雄,8 カ月齢.
[臨床事項]7 ヶ月齢時から徐々に元気消失,食欲低下が見られ近医にて対症療法を行っていたが,症状は改善しなかった. 右旋回,左威嚇反射低下,右顔面部の知覚過敏,意識低下が見られ始め,本学動物病院に来院. CT 検査において,右側大脳〜視床にかけて腫瘤が認められ,石灰沈着と思われるレントゲン不透過部位が混在していた. 初診より約 1ヶ月後,安楽殺の処置が行われた.
[剖検所見]右側前頭部〜視床にかけて4.5 × 3.5 × 3 cm 大の灰白色充実性腫瘤が認められた. 腫瘤と脳実質の境界は不明瞭で,主に右側脳室に突出し,左大脳を圧迫していた. 左右の側脳室は拡張していた.
[組織所見]腫瘍内には,しばしば大型淡明核と豊富な好酸性細胞質を有する大型細胞が認められた(図 1). この細胞は,抗 neurofilament 抗体を用いた免疫組織化学により,細胞質および突起が陽性を示し(図 2),ニッスル染色により細胞質内のニッスル物質が確認された(図 3). 電顕的にも,細胞質内に多数の粗面小胞体が認められ,神経細胞への分化が示唆された. また,腫瘍内には散在性あるいは血管周囲性に hyperchromatic で短紡錐形ないし類円形核を有する小型細胞が認められた(図 1). PCNA 免疫組織化学では,陽性細胞はもっぱらこの小型細胞に認められ,電顕的に細胞内小器官の発達が悪く,未分化細胞と考えられた. また,抗 synaptophysin 抗体を用いた免疫組織化学では,腫瘍内にびまん性ドット状の陽性所見が得られた. 抗 GFAP 免疫組織では,腫瘍内にもしばしば陽性細胞が見られたが,細胞異型は認められず,グリア細胞への積極的な分化は示唆されなかった.
[診断]Ganglioneuroblastoma
[考察]成熟神経細胞を含む腫瘍として,ganglioneuroma, ganglioglioma, ganglioneuroblastoma が知られている. 今回の腫瘍は,基本的には神経細胞のみへの分化を示すこと,未分化神経細胞が混在することより,ganglioneuroblastoma と診断された. (桑村 充)
[参考文献]
1. Mattix ME et al, Vet Pathol 31: 262-265 (1994)
2. Schulz KS et al, Vet Pathol 31: 716-718 (1994)