[動物]ネコ,雑種,雄,9 歳 8 ヶ月齢.
[臨床事項]死亡前夜に食欲不振に陥った(体温:39.4 度). 翌朝,横臥状態,後弓反張,痙攣を呈し死亡(体温:36.6 度). 死亡前の血液検査では,血清総蛋白(9.0 g/dL),グルコース(280 mg/dL),ALP(178 u/L)各々やや高値を示した以外特に異常値は認められなかった.
[肉眼所見]左側中耳鼓室に黄色粘稠液貯留(中耳炎). 大脳を含む全身諸臓器に著変は認められなかった.
[組織所見]大脳の背内側の白質に著明な水腫(図 1),同部の皮質の小血管および毛細血管の周囲に弱好酸性物質が認められた(図 2). 弱好酸性物質は,PAS 反応(図 3),PTAH 染色および抗フィブリノーゲン抗体を使用した免疫染色において陽性像を示した. 髄膜および皮質の一部の血管壁も陽性であった. 白質の血管には同様の所見はほとんど観察されなかった. 抗ラミニン抗体を使用した免疫染色では,皮質の多数の小血管および毛細血管の基底膜の染色性が正常基底膜のそれに比し弱い傾向が認められた. 同質の病変は大脳の前頭葉尾状核頭部レベルから後頭葉まで両側性に認められた. 尚,中枢神経系に腫瘍,炎症,神経細胞壊死,膠症などは認められなかった.
[電子顕微鏡的所見]皮質の小血管の基底膜の局所性肥厚,内皮側基底膜と星状膠細胞側基底膜に血漿蛋白と思われる物質の沈着が認められた.
[診断]両側大脳半球の背内側領域における血管症を伴った水腫
[考察]皮質の小血管および毛細血管の周囲に認められた弱好酸性物質は,特殊染色および免疫染色により血漿蛋白であることが示唆された. 血管壁においても血漿蛋白の沈着を示唆する所見が観察された. 本例の病理組織像に類似の病態として「豚の脳脊髄血管症(大腸菌症)」があげられる. しかし,本例の病変は両側大脳のある特定の領域(背内側)に限局していることから,本症の病理発生に菌体毒素が関与している可能性は低いと推察された. 本例の臨床像および病理組織像は,ヒトの硬膜内静脈洞血栓症のそれらに類似している. 但し,本例には静脈のうっ血が著明でない点がヒトの病理像と異なっていた. 我々が調べた限り,本例と同質の病変および分布を呈した症例の報告は動物では無かった. 本例の硬膜内静脈洞に関しては,材料の不足により確認することができなかった.(森田剛仁)
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