[動物]ウシ,ホルスタイン種,雌,5 歳.
[臨床事項]起立不能を呈し廃用となった.と畜場で「敗血症」と診断され,全部廃棄された.脳のみが BSE サーベイランスに供された.
[肉眼所見]著変認められず.
[組織所見]主病変は灰白質に主座し,左右両側対称性に神経網の空胞変性が観察された.病変は三叉神経脊髄路核(図1),孤束核あるいはオリーブ核等の神経網で顕著に認められ,神経細胞細胞体の空胞変性は稀であった(図2).抗 GFAP 抗体を用いた免疫染色(IHC)では,非常に軽度なアストロサイトの活性化が認められた.抗プリオン蛋白質抗体を用いた IHC では,灰白質領域に一致して顆粒状の陽性反応が確認された(図3,4).
[診断]海綿状脳症(疾病診断:牛海綿状脳症)
[考察]ウエスタンブロットでは BSE 陽性牛と同じ分子量の3 本のバンドが検出された.脳全域における病変分布を検索した結果,空胞変性は脳幹,特に中脳および延髄において顕著に認められた.また IHC ではこれらの病変に一致して陽性反応が確認された.更に尾状核,被殻,小脳皮質では空胞変性が認められなかったにも関わらず,IHC により異常プリオン蛋白質が検出された.大脳皮質では空胞変性,異常プリオン蛋白質ともに確認されなかった.本症例の脳の病変分布は英国の BSE 症例のものと類似していた.このことから本症例は英国例と同じ BSE プリオンに罹患している可能性が示唆された.また IHC では、病変が確認されなかった領域においても陽性反応が認められ,診断および病態解析におけるその有用性が示された.(木村久美子)
[参考所見] 1. Kimura, K.M. et al. 2002. Vet. Rec. 151: 328-330.
2. Wells, G.A.H. and Wilesmith, J.W. 1995. Brain Pathol. 5: 91-103.
3. Simmons, M.M. et al. Vet. Rec. 138: 175-177.
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