[動物]猫,雑種,雄,7 才.
[臨床事項]症例は,前肢第 3 指における腫瘤形成を主訴に開業獣医病院に来院した.飼主が気付いた時点で腫瘤は約 2 cm 大であり,腫瘤部表皮の潰瘍形成が認められた.外科的に腫瘤摘出が実施されたが,飼主の希望により,第 3 指を保存し腫瘤のみを摘出した.腫瘤は 1.5 x 2 cm 大で硬く,均質で白色であった.表皮の一部で潰瘍形成が認められた.
[組織所見]真皮深部から皮下織にかけ,腫瘍細胞が充実性に増殖し,正常皮膚との間に明瞭な被膜形成はなかった.腫瘤では,類円形で上皮様形態を示す腫瘍細胞が柵状に配列し,いわゆる organoid pattern を示す部位が特徴的に観察され(図1),さらに小型から中型の血管周囲に腫瘍細胞が密に集簇して増殖する所見が頻繁に確認された(図2).また腫瘤の一部では,粘液腫状の間質を伴い,類円形から長紡錘形を示す腫瘍細胞が,緩やかな線維束を形成しつつ不規則に増殖する部位も認められた.間質では,過ヨウ素酸シッフ染色,ゴモリメセナミン銀染色に陽性を示す細線維が個々の腫瘍細胞を取り囲み,いわゆる籠入り像が観察された(図3).免疫染色では,腫瘍細胞の多くがα平滑筋アクチン,vimentin に強陽性を示し(図4),その他の検索した cytokeratin,desmin,S-100, NSE,及び第 8 因子関連抗原には陰性であった.
[診断]左側前肢第 3 指にみとめられたネコのグロームス腫瘍
[考察]グロームス腫瘍は動静脈吻合部の血管球に由来する良性腫瘍で,ヒトでは,正常な血管球の分布と一致して,指先,爪床,口唇部に好発する腫瘍とされる.動物のグロームス腫瘍に関する報告は,非常に少なく伴侶動物では,イヌ1症例の報告にとどまり,ネコのグロームス腫瘍に関する報告は見当たらない.ヒトの場合,グロームス腫瘍と鑑別すべき腫瘍として hemangiopericytoma が挙げられるが,S-100,NSE 等の神経系マーカーに陰性であることや増殖形態の相違等より否定した.また,epithelioid leiomyoma やいわゆる stromal cell tumor 等の特殊な形態を示す平滑筋系腫瘍は,生殖器等に大型腫瘤を形成する傾向があり,しばしば多様な分化傾向を示すことが知られており,今回の腫瘍とは,発生部位の相違,明確な血管周囲性増殖,および分化傾向の均一性等の特徴より鑑別した.(内田和幸)
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