[動物]猫,ロシアンブルー,去勢雄,13歳4ヶ月齢.
[臨床事項]3ヶ月前に右後肢中足骨付近腫脹.内部より膿性粘稠液排出.膿瘍と診断されたが,その後非上皮性腫瘍と診断され,股関節より断脚された.その際同側膝窩リンパ節の腫大がみられた.X線では骨に異常はみられなかった.
[肉眼所見]腫瘤は灰白色軟で粘液に富み,皮膚直下から中足骨を取り巻くように6×4×3 cm大の円筒状に発達.足底部では筋および屈筋腱は確認できたが,背側では伸筋腱は不明瞭であった.
[組織所見]腫瘍細胞は線維性組織によって粗く分画されていた.
腫瘍細胞は核小体の明瞭な大形偏在核を有する大小の多角形細胞と多核巨細胞からなり,それらは疎に分布していた(図 1).腫瘍細胞間にはヒアルロン酸を含む多量の粘液(ヒアルロニダーゼで消化)と少数の炎症細胞が認められた.免疫染色では多くの多角形細胞は vimentin および cytokeratin に陽性を示したが,多核巨細胞はいずれも陰性であった.膝窩リンパ節の皮質に粘液産生を伴う同様の腫瘍細胞の結節状転移巣が認められた.電顕観察では,多角形細胞の細胞質には多数の粗面および滑面小胞体が密に発達し,また少数のフィラメントもみられた(図 2).多核巨細胞の細胞質内には高度に発達した小胞体が充満していた.
[診断]腱鞘悪性巨細胞腫瘍 Malig. giant cell tumor of tendon sheath
[考察]腱鞘悪性巨細胞腫瘍は非関節部に発生し,多核巨細胞,大型単核細胞の出現を特徴とする.しかし,今のところ腫瘍細胞の由来は確定されていない.本例では腫瘍細胞の貪食像がみられないこと,免疫染色ではリゾチーム,alpha 1-antitrypsin に陰性であること,電顕観察ではライソゾームの発達がみられないことなどから組織球系腫瘍の可能性は否定できる.また,腫瘍細胞の免疫染色結果から,滑膜肉腫の可能性も考慮されたが,中足骨両端の関節滑膜には著変がないこと,腫瘍細胞に線維芽細胞様細胞が含まれていないことから否定された.組織像において骨肉腫,特にGiant cell tumor of boneとも類似するが,それらは骨髄の未分化間質細胞由来で骨破壊を伴うとされており,骨異常がみられなかった本例とは区別できる.(高橋公正)
[参考文献]Pool RR & Thompson K.J. In:Tumors in domestic animals, 4th ed. pp.234-237(2002)
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