[動物]イヌ,ゴールデンレトリバー種,雄,6 歳.
[臨床事項]1999 年 12 月,右眼の羞明にて開業医を受診.右上頬部に直径 2 cmの腫瘤がみられた.2000 年 3 月,本学家畜病院に転院.右眼直下にまで拡がる腫瘤,右上顎最後後臼歯部に胡桃大の腫瘤がみられ,X 線検査で肺の一部に微細球形マスがみられた.同月より患部に放射線治療を施すも改善せず,5 月,頬部腫瘤摘出(標本 A).その後,腫瘤の再発,肺マスの増数と拡大がみられ,11 月 20 日,死亡.同日,剖検した.
[剖検所見]右上顎部に手拳大腫瘤がみられ,腫瘤割面は乳白色で頭蓋骨から連続していた.肺では最大6×5×4.5 cmに至る白色腫瘤が密発し(標本 B),同様の白色腫瘤が胸膜,腎臓にもみられた.
[組織所見]頬部腫瘤(標本 A)は多数の小葉構造で構成されていた(図 1).小葉では中心部に粘液様基質を有する紡錘形細胞もしくは骨組織がみられ,周囲には好酸性細胞質の紡錘形細胞が増殖し,それらを線維性結合織が囲んでいた(図 2).中心部の粘液様基質と紡錘形細胞はトルイジン青(pH 4.1)に異染性(図 3),アルシアン青(pH 2.5,1.0)に青染し軟骨であることが証明された.頬部再発腫瘤では線維性結合織により小葉構造を呈し,多くの小葉は紡錘形細胞の増殖で占められ,希に軟骨または骨を中心に紡錘形細胞が増殖していた.肺(標本 B)では頬部腫瘤と同様に線維性結合織で囲まれる大小の小葉構造がみられ,小葉内は紡錘形〜卵円形の細胞が充実性に増殖していた(図 4).種々の細胞骨格に対する ABC 染色を試みたが,紡錘形細胞に対しては vimentin のみが陽性を示した.
[診断と考察]組織診断は「肺転移を伴う多小葉性骨腫瘍」とした.Pool[2]は多小葉性骨腫瘍の悪性転化の診断基準として,分裂活性,小葉構築の消失,壊死,出血,間葉系細胞の過大な成長を挙げている.本症例では標本Aの初発病巣と標本Bの肺腫瘤で組織構築は同一ではなかったが,頬部再発腫瘤と肺腫瘤の組織像が同じであることから,肺腫瘤は頬部腫瘤の過大成長した間葉系細胞が転移した病巣とした.肺へ転移を示した報告[1]では頭蓋骨の原発巣と転移巣の組織構築は同様とされており,本症例のような紡錘形細胞のみの転移を多小葉性骨腫瘍の範疇に入れて良いか問題として残された.(池田 学)
[参考文献] 1. Losco, P.E. et al. 1984. J. Comp. Pathol. 94: 621-4.
2. Pool, R.R. 1990. pp. 207-13. In: Tumors in Domestic Animals 3rd ed.
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