No.858 ブタの心臓

動衛研・つくば、山形県中央家保


[動物]豚,LW種,8 日齢.
[臨床事項]母豚数 177 頭の一貫経営農場において,6 月から 8 月にかけて白子,黒子および虚弱子が娩出される異常産が発生した.提出標本は正常に分娩したものの衰弱死した 1 頭で,同腹の 7 頭はすべて黒子であった.
[剖検所見]体表リンパ節の軽度〜中等度腫大が認められた.
[組織所見]低倍では,図 1のように帯状ないし巣状に病変が認められた.病変部ではリンパ球・マクロファージを主体とした炎症細胞の浸潤と,心筋の変性ないし壊死がみられた(図 2).また,線維化(図 3)やまれに多核巨細胞の浸潤も認められた(図 3,インセット).このような多核巨細胞はリンパ節や胸腺などでもみられた.Porcine circovirus type 2 (PCV2) の免疫染色および in situ hybridization では,心筋細胞(矢印)や浸潤マクロファージ(矢頭)の細胞質に陽性反応が認められた(図 4).陽性反応はときに心筋細胞の核にもみられた.心臓の戻し電顕では,心筋や浸潤マクロファージの細胞質に直径 17-18 nm の結晶状配列をとるウイルス粒子が確認された.また,ウイルス学的検査で肝臓および脳より PCV2 が分離され,PCR では PCV2 陽性,豚コレラ,日本脳炎,豚パルボ,PCV1 および PRRS ウイルスは陰性であった.
[診断]心筋の変性および線維化をともなった非化膿性心筋炎(PCV2 感染による)
[考察]本症例の特徴として,リンパ組織を中心に多臓器で多核巨細胞の浸潤を認め,また脳炎は認めなかった.これらから,他の心筋炎を起こすウイルス感染症とある程度組織学的な鑑別ができるものと思われた.PCV2 が関与する疾病として,離乳後多臓器性発育不良症候群 (PMWS) や豚皮膚炎腎症症候群 (PDNS) の他,異常産が知られている.West や O'Connor らは,PCV2 感染による流産胎子で共通して心筋炎を認めている.また,最近 Sanchez らは,PCV2 の標的細胞は胎子期では心筋細胞などで,生後にはマクロファージへと変化することを報告している.これらのことから,PCV2 感染では感染時期,宿主の免疫状態や混合感染の有無などにより,さまざまな病態を示すものと思われる.(三上 修)
[参考文献]
1. O'Connor, B. et al. 2001. Can. Vet. J. 42: 551-553.
2. Sanchez, R.E. et al. 2003. Vet. Microbiol. 95: 15-25.
3. West, K.H. et al. 1999. J. Vet. Diagn. Invest. 11: 530-532.