No.861 ドウバネインコの肝臓と心臓

岐阜大学


[動物]ドウバネインコ,雌,2歳.
[臨床事項]急に食欲不振を示し,削痩が目立つようになった.便は,抹茶アイスクリーム様の軟便を排泄した.その後,症状の改善はなく,約1週間後に死亡した.
[剖検所見]全身の削痩が高度であった.腹腔では,黄色で混濁した腹水が少量貯留していた.気嚢は全体に黄色混濁し一部は腹壁と癒着していた.心膜は全体に白濁し,黄色透明な心嚢水を少量容れていた.脾臓は,全体に退色し約3倍大に腫大していた.肝臓は,高度に腫大し,表面に米粒大の白色および黄白色斑が数個認められた.腎臓では,右腎で表面に出血巣が散見された.
[組織所見]肝臓および脾臓における巣状から瀰漫性の壊死巣が多発性に認められ(図1),その周囲には好塩基性菌塊(図2)を容れたマクロファージの高度な浸潤がみられた.また,腎臓,心内膜,心外膜下においても,形質細胞の浸潤に加えて,好塩基性菌塊を容れたマクロファージの浸潤が認められた.抗クラミジア抗体を用いた直接蛍光抗体法では(図3),感染した各臓器で陽性反応が認められたことから,各例ともクラミジア症と同定された.
[診断]クラミジア症
[考察]クラミジア症はchlamydia psittaciを原因菌とし,オウム・インコ類をはじめとする鳥類,人や家畜などの哺乳動物など幅広い宿主に対してしばしば致死性の疾病を引き起こす人獣共通感染症である.輸入および国内飼育鳥の保菌率は,約20%とする報告もある.ほとんどの感染鳥は不顕性であるが,稀にストレスに伴って,顕性かつ重篤な全身感染を示して斃死する例もある.また,発症した鳥は,大量の菌を排出するため,人オウム病の感染源となる.わが国に輸入されているオウム・インコ類では,重度の全身クラミジア症が散発性に認められた.この確定診断に関して,組織学的検索および蛍光抗体法の適用が有用であると考えられた.(柳井徳磨)
[参考文献]Franson, J. C. 1999. Chlamydiosis. pp.111-114. In: Field Manual of Wildlife Diseases. (Friend, M. and Franson, J.C. eds.) USGS