No.862 ウマの肺

酪農学園大学


[動物]ウマ,サラブレット,牡,1ヶ月齢.
[臨床事項]出生時より,飛節以下が外向し(X 脚の状態)で起立していた.生後1ヶ月間の経過観察で X 脚状態の改善は見られず,X 線検査で第三足根骨の不整を認め,手術適用外と診断されたことから,安楽死処分後剖検された.
[剖検所見]両後肢中心足根骨頭側の前面部に骨質の菲薄化が認められた.肺には全葉にわたり肺門を中心に母指頭大の膿瘍が多数認められ(図 1),一部は被膿化していた.肺リンパ節ならびに気管気管支リンパ節は腫大し黄白色で微小な膿瘍形成を認めた.
[組織所見]本症例は多数の好中球およびマクロファージとその崩壊産物からなる膿瘍であり,マクロファージ細胞質内には多数の球形な細菌を認められた(図 2).肺胞構造が比較的残存する膿瘍周囲では多数の好中球ならびにマクロファージが肺胞内へ浸潤しており(図 3),多核巨細胞の浸潤も伴っていた.膿瘍領域に加え,肺胞内に浸潤する多数のマクロファージ細胞質内にはグラム染色陽性を示し球菌を認めた.抗 Rhodococcus equiR. equi) 抗体を用いた免疫組織化学的染色により HE 染色で認められた膿瘍とその辺縁部ならびに肺胞内に浸潤するマクロファージに強陽性像が観察された(図 4).グロコットメセナミン銀染色および抗酸菌染色では陰性であった.
[診断]R. equi 感染に起因した肺膿瘍
[考察]今回の肺病巣は組織学的検索に加え,細菌分離検査により R. equi が分離されたことから R. equi 感染に起因した肺膿瘍と診断した. ウマの幼弱期の肺炎には R. equi に起因したものが多く,過去の報告と同様の典型的な病巣であると思われた.しかしウマの当歳の肺炎では, R. equi が分離されても組織学的検索で細菌塊を認めない個体や,カリニによる混合感染が認められる個体も多く,抗生物質による治療や罹患経過に左右される場合もあると推察され,病巣の原因学的特定には注意を要する必要があると思われる.(岡本 実)
[参考文献]
1. Ishino, S. et al. 1992.J. Vet. Med. Sci. 54: 509-15.
2. Madarame, H. et al. 1996.Vet Pathol. 33: 341-343.