[動物]犬,雑種,雌,約 10 歳齢.
[臨床事項]本症例は 2 週間前からの発咳により開業獣医に上診し,利尿剤による治療を受けるが回復しないため本学附属動物病院に来院した.胸部レントゲン検査では肺全体に不透過性が亢進し,特に前葉には無気肺を疑う像がみられ,胸水貯留もあり,真菌性の肉芽腫性肺炎あるいは肺腫瘍と診断された.その後,胸水 400 mL の除去等の治療を行うが回復せず,発咳から 1 か月後に死亡し,剖検を行った.
[剖検所見]肺は右前葉の全体が黄白色を呈して硬度を増し,割面は水分含有が少ない海綿状であり,右前葉以外の肺葉には多数の白色結節が瀰漫性に認められ,無気肺部が広範にみられた(図 1).胸腔内のリンパ節は腫大していた.他の臓器では,腎臓の石灰沈着,肝臓の変性,脾腫,胃潰瘍,副腎結節性過形成等が認められた.なお,右前葉はほとんどが壊死であったためにそれ以外の肺葉から標本を作製した.
[組織所見]提出標本では,やや淡明で大型円形の核を有し,細胞質に富み,特定の増殖形態を呈さない未分化な腫瘍細胞が主体となって増殖し,肺胞中隔や肺胞内に様々な大きさの瀰漫性増殖巣が認められた.それぞれの増殖巣の中心部は壊死傾向が強かった.腫瘍細胞にはいくつかが集蔟したり,アルシアンブルーや PAS 染色陽性な粘液を産生して細胞質が拡張した細胞,多形性が強い大型の細胞や多核巨細胞等の多様な形態も認められた(図 2).胸腔内のリンパ節には腫瘍細胞が転移していた.免疫染色では Keratin (wide),Cytokeratin (AE1/AE3),Vimentinに陽性で,CD56(NCAM),NSE,Synaptophysin,Chromogranin A,ACTH,α-1 Antitripsin,Lysozyme に陰性で,未分化な肺癌ではあるが,小細胞癌,神経内分泌腫瘍,組織球系悪性腫瘍の特徴はなかった.電顕検索において,腫瘍細胞は接着装置を有する細胞小器官に乏しい未分化な上皮性細胞であり,微細な管腔には少数の微絨毛が存在し,また張フィラメントを有してデスモゾームによって結合する腫瘍細胞も認められ,腺癌や扁平上皮癌の形態も有していた.神経内分泌顆粒は認められなかった.
[診断]大細胞癌(旧診断名:未分化癌)
[考察]本症例は印環細胞癌,低分化腺癌,低分化扁平上皮癌等の多様な組織形態を呈する未分化な非小細胞肺癌ではあるが,WHO(1999)の分類における典型的な大細胞癌ではなく,waste basketとしての位置付けでの診断であることを考慮する必要がある.(三好宣彰)
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