[動物]イヌ,ボーダーコリー,去勢雄,1 歳 11 ヶ月.
[臨床事項]不安反応,聴覚過敏,視覚障害を主訴に来院.血液検査,神経学的検査,脳脊髄液検査,眼底検査および網膜電位検査(ERG)で異常は認められなった.MRI 検査において脳溝の軽度拡張および左脳室の拡張がみられた.検査後,運動能力の低下,採食困難,感情鈍麻が進行性に認められ,第 96 病日に痙攣発作をおこし斃死.大脳と眼球のみが病理学的検索のため提供された.症例と同腹兄弟が同様の症状を呈し斃死している.
[剖検所見] ホルマリン固定材料であるが,特に著変は認められなかった.
[組織所見]大脳皮質の神経細胞は軽度であるが散在性に萎縮,消失し,グリア細胞の集簇が観察される部位があった.ほとんどの神経細胞,星状膠細胞および網膜・視神経細胞の細胞質内には黄褐色の顆粒が充満しており,時に顆粒の凝集像も観察された(図 1).細胞質内蓄積顆粒は,LFB,PAS,シュモール反応そして Sudan III に陽性を示し(図 2,LFB-HE),蛍光顕微鏡では自己蛍光を発した(図 3).電子顕微鏡学的には高電子密度の層板状,指紋状あるいは不定形な構造物で,限界膜は不明瞭であった(図 4).
[診断]ボーダーコリーのセロイドリポフスチノーシス(Ceroid-lipofuscinosis)
[考察]セロイドリポフスチン症は自己蛍光性の脂質顆粒が神経細胞および他の細胞内に蓄積することにより発症する遺伝性の神経変性性疾患である.本症例は両親が同じ雄犬由来で,その祖父母がともにセロイドリポフスチン症キャリアーとして登録されており,同様の疾患が世代を経て発症したと考えられる.常染色体劣性遺伝をとるこの疾患の発生報告はオーストラリア,ニュージーランド,アメリカに限られていたが,キャリアー犬が日本に輸入され繁殖に使われている事実から,病因遺伝子が日本のボーダ−コリーに浸透している可能性が疑われる.(渋谷 久)
[参考文献] 1. Taylor, R. M. and Farrow, B. R. H. 1992. Am. J. Med. Genet. 42: 622-627.
2. Jolly, R. D. et al. 1994. J. Small. Anim. Pract. 35: 299-306.
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