No.867 ネコの大脳

東京大学


[動物]ネコ,日本猫,雌,9ヶ月齢.
[臨床事項]2002 年 3 月生まれ.5ヶ月齢で起立不能となり,動物病院でステロイド等により治療を受けるが良化せず.同年 9 月精査目的で東京大学 Veterinary Medical Center を受診.縮瞳,外斜視,姿勢反応等の異常を認め,企図振戦も認めた.MRI では大脳白質が T2 強調像にて高信号を示す異常を認めた.血液検査では,白血球数の増加(27,300/μl)とリンパ球内空胞が認められた.その後,摂食困難となり,2003 年 1 月 2 日死亡.北大内科での白血球と血清による生化学的検査から,Sandhoff 病(GM2 ガングリオシドーシス)と診断された.
[剖検所見]小脳正中硬膜下にφ約2cm の出血巣が認められたが,脳実質表面には特に変化は見られなかった.大脳皮質は乳白色で軽度萎縮.他臓器には肉眼的な異常は認められなかった.
[組織所見]大脳皮質では神経細胞およびミクログリアが腫大し,胞体内には泡沫状の蓄積物がみられた(写真 1).神経細胞周囲にはアストログリアの増生が認められた.蓄積物は凍結切片を用いた PAS 染色に陽性を示し(写真 2),オイルレッド O 染色およびズダンブラック B 染色にも陽性を示すものがあった.また,電子顕微鏡観察で神経細胞およびミクログリアの細胞質内に membranous cytoplasmic body と呼ばれる層状構造物の充満が観察された(写真 3).LFB と HE の二重染色で白質の狭小化が示され,髄鞘の密度も減少していた(写真 4).さらに電顕観察でも,有髄軸索の減数が認められた(写真 5).白質では主としてミクログリアに蓄積物がみられ,アストログリアの増生も認められた.脳以外では,肝細胞内に同様の蓄積物が認められた.生化学的検査および神経細胞内蓄積物の染色性より,GM2 ガングリオシドーシス2型と診断した.
[診断]GM2 ガングリオシドーシス 2型
[考察]皮質では神経細胞へのガングリオシドの著しい蓄積が,白質ではミエリンの減少が認められた.白質のミクログリアの細胞質内にはガングリオシドの蓄積が観察されたが,ミエリン断片の貪食像はほとんど見られないことから,白質におけるミエリンの減少はミエリン形成不全によるものと考えられた.ヒトのGM2 ガングリオシドーシスでもこのような白質形成不全はいくつかの報告されており,MRI の T2 強調像で高信号域として描出される.(上塚浩司)