No.868 ウシの肝臓

北里大学


[動物]ウシ,黒毛和種,雄,10ヶ月齢.
[臨床事項]尿毒症の疑いで来院.約 3 ヶ月間治療されるが,改善見られず安楽殺.
[剖検所見]表面および割面はオレンジ色であった.実質は割面より軽度に膨隆し,脆弱で,水腫調であった.
[組織所見]実質の全域が顕著に腫脹した肝細胞により占められていた.細胞質は均質淡好酸性で,時折空胞を含んでいた(図 1).稀に硝子滴も認められた.腫脹した細胞質は,組織化学的に PAS 反応陰性で,免疫組織化学的にフィブリノーゲン(図 2),アルブミン(図 3)およびアンチトリプシン陽性であった.電顕的に,腫脹した細胞質の本態は顕著に拡張した粗面小胞体であった.粗面小胞体内には,血漿蛋白質に似た,不定形の微細顆粒状物が充満していた.肝細胞の細胞質は変性〜消失し,細胞質内小器官がディッセ氏腔に浮遊していた(図 4).
[診断]肝細胞の水腫性変性
[考察]提出標本は,第 42 回獣医病理学研修会において動物衛生研究所より出題されたフィブリノーゲン封入体と病態が酷似していた.しかし本症例は,免疫組織化学的に,フィブリノーゲン 以外の血漿蛋白にも陽性を示した.また,粗面小胞体だけでなく,滑面小胞体も拡張していたことから,細胞外から水分あるいは蛋白質が流入した病態,すなわち水腫性変性であると診断した. 原因の特定には至らなかったが,細胞膜の変性や,硝子滴の出現などから,何らかの中毒性病態ではないかと推察した(植木秀彰).
[参考文献]Yamada, M. et al. 2002. J. Comp. Pathol. 126: 95-99.