No.869 イヌの肝臓

宮崎大学


[動物]イヌ,アメリカンコッカスパニエル,雌,1999 年 8 月 10 日生まれ.
[臨床事項]2003 年 3 月 1 日某動物病院で診療が開始.他院にてその 2 年前,出産後肝機能低下の治療.食欲減退,急速に悪化.肝不全により腹水少量認める.26 日可視粘膜は黄色で黄疸を示す(ビリルビン 2.84 mg/dl).肝性脳症(神経症状).31日高 NH3 血症 (128 μg/dl),高胆汁酸血症 (300 μg/dl).4 月 5 日 発作などを示すようになり死亡.剖検によって肝採取.門脈に肉眼的異常なし.
[剖検所見]腹水多量(約1−2L).肝臓は全体に褐色を呈し,萎縮し表面は凹凸顆粒状(図 1)で,一部に大きめの結節を認めた.所々明瞭な結節が認められる.ホルマリン固定後割面では,濃緑褐色部に白色結節が所々見られた(図 2).この部位は,組織学的には再生像を示す肝臓組織でした.
[組織所見]肝小葉間及び内に線維化(図 3,マッソントリクローム)が見られ,線維束の中には萎縮小葉間胆管がみられる.肝細胞には壊死および炎症反応がみられる.すべての肝細胞は脂肪化著明で,大脂肪含有細胞はグリッソン鞘から離れた中心静脈周囲に多く見られた.髄外造血が所々見られた.胆汁うっ滞を示す胆栓が見られた.ヘモジデリンも細胞質の大きいマクロファージに沈着していた.再生性結節がみられ一部では血管による供給不足による壊死及びグリッソン鞘が残っていた(図 4,HE).
備考:本犬の父犬を共通とする系統に 5 頭,同疾患を発見し,うち 2 頭は門脈造影により門脈に異常のないことを確認.うち 1 頭の本犬の子供(雄)2 歳は現在(7/8)治療中.
[診断]肝硬変
[考察]肝硬変は元来肝臓の再生能力の強い人やラットの慢性活動性疾患にみられる.人のB型やC型肝炎はその典型であるが,犬では肝疾患に再生像がみられることはほとんどなく肝線維症として診断されることが多い.この症例は再生結節が明瞭にみられ,肝硬変の定義にあてはまり肝硬変が診断できた症例である.犬で再生能がみられにくいので,人間の Commencing Liver Cirrhosis に相当する.診断に反対も一部あったが,これほどの再生結節は犬ではみられず,病変は,び漫性で,なお,活動中で慢性進行性である.そして,改築がみられる.肝硬変の定義に合致し,この症例を肝硬変と診断した.自然発症例として犬の肝硬変は少ない.(山口良二)