No.873 ラットの卵巣腫瘤

日本生物科学研究所


[動物]ラット,Crj:CD(SD)IGS,雌,109 週齢.
[臨床事項]4 週齢時に入荷し,1 週間の検疫・馴化期間を経た後,5 週齢から104 週間のがん原性試験の背景資料作成のためにバリアーシステム下で飼育された.試験終了時の剖検まで異常な臨床症状は観察されなかった.
[肉眼所見]左側卵巣が著しく腫大 (20×15×12 mm) していた.卵巣腫瘤は灰白色充実性で硬度鞏,割面において軽度に分葉していた.卵巣腫瘤と腹腔内の他臓器との癒着はなかった.他臓器に卵巣腫瘤と関連性のある異常所見はなかった.
[組織所見]腫瘤は偽分葉状増殖を示していた (図 1).腫瘍組織は紡錘形細胞の束状あるいは花むしろ様配列 (図 2) および小血管を中心にした紡錘形細胞あるいは多型性細胞の渦巻状配列 (図 3) を示していた.腫瘍細胞は,顆粒状のクロマチンを容れ,時に明瞭な核小体がみられる卵円形あるいは長円形の核を有していた.腫瘍の大部分には豊富な膠原線維が存在し,個々の腫瘍細胞は好銀線維によって囲まれていた.脂肪染色により一部に微細脂肪顆粒を含有する細胞が証明された.免疫染色において腫瘍細胞はビメンチン,S100 蛋白およびα平滑筋アクチン陽性であった.腫瘍塊の辺縁部にやや胞体の大きい紡錘形細胞の渦巻状増殖に巻き込まれるように多核巨細胞が散在していた (図 4).これらの巨細胞はラット組織球/マクロファージマーカー (ED1) 陽性であった.
[診断]ラット卵巣の多核巨細胞を伴う莢膜細胞腫
[考察]腫瘍には上皮性成分がみられず,胚細胞由来の成分も認められなかったこと,紡錘形あるいは多型性の間葉系細胞によって大部分が構成されていることから性索間質性腫瘍と考えられた.大半の腫瘍細胞には明瞭な脂肪顆粒はなかったものの,空胞状細胞質をもつ莢膜細胞様の細胞が混在していたこと,ラットあるいはヒトの莢膜細胞腫がビメンチン,α平滑筋アクチンおよび S100 蛋白陽性であることから,本症例は莢膜細胞腫と診断された.腫瘍は大型であるにもかかわらず壊死巣がほとんどなく,細胞分裂活性が低いこと,周囲組織への浸潤性増殖あるいは遠隔転移がないことから良性の性格と考えられた.ヒト卵巣腫瘍内における多核巨細胞は中胚葉間質細胞に由来の非腫瘍性変化と考えられており,卵巣腫瘍あるいは卵巣嚢胞に関連するなんらかの物質に対する反応との記載がある.(渋谷一元)
[参考文献]
1. Franco V et al. 1995. Histol. Histopathol. 10: 55-60.
2. Ozaki K & Narama I. 2000. Toxicol. pathol. 28: 829-831.
3. Tiltman AJ & Haffajee Z. 1999. Intr. J. Gynecol. Pathol. 18: 254-258.