[動物]イヌ,シェットランドシープドック,去勢雄,9歳.
[臨床事項]2002 年 5 月末,下顎部の腫瘤に飼い主が気づき,某動物病院に来院.同年 6 月 15 日,腫瘤は下顎腺とともに摘出され,弊社へ送付された.
[組織所見]腫瘤は下顎腺内部に形成された腫瘍であり,結合組織によって被包されていた.腫瘍は結合織によって大小の小葉に分葉され,小葉内では腺上皮細胞と筋上皮細胞が種々の量で混在した2相性増殖を示していた(図 1: bar=50 μm).サイトケラチン19(以下 CK19)陽性の好酸性細胞質を有する円柱状の異型腺上皮細胞は腺管を形成し,腺管周囲では smooth muscle actin(以下 SMA)陽性の淡明な細胞質を有する異型筋上皮細胞が増殖していた.腺上皮細胞様の好酸性の細胞質を有する異型細胞が充実性に増殖し,HE 染色標本上で明らかな2相性を示さない部位(図 2: bar=50 μm)においても,CK19 陽性の腺上皮細胞の増殖巣を取り囲んで SMA 陽性細胞の増殖がみられた(図 3 (CK19),図 4 (SMA)).また,淡明な細胞質を有する紡錘形の異型細胞が柵状に増殖する部位においても,増殖巣の中心に CK19 陽性細胞が少数認められた.CK19 陽性の好酸性細胞質を有する円柱状の異型腺上皮細胞の核は類円形で,大小不同,大型の核小体を有し,クロマチンは微細顆粒状であった.腺上皮細胞の増殖巣周囲で増殖する SMA 陽性の淡明な細胞質を有する異型筋上皮細胞は細胞境界の不明瞭な紡錘形〜多形で,核は類円形,大小不同であった.また,いずれの異型細胞にも核分裂像が散見された.
[診断]Epitherial-myoepitherial carcinoma of salivary gland (唾液腺の上皮-筋上皮性癌)
[考察]動物腫瘍の旧 WHO 分類では,腺上皮細胞と筋上皮細胞の両者が混じる悪性腫瘍は悪性混合腫瘍と定義されている.悪性混合腫瘍は carcinoma in pleomorphic adenoma に分類され,骨や軟骨形成が認められる多型腺腫の一部で腺上皮細胞ないし筋上皮細胞が悪性像を示すものとされている.本例は悪性像を示す腺上皮細胞と筋上皮細胞が種々の量で混在し,2相性を保って増殖しているものの,骨や軟骨形成が全く認められないことから,旧 WHO 分類の悪性混合腫瘍には相当しないと考えた.現時点で動物の唾液腺腫瘍の新しい WHO 分類は存在しないため,Tumors in Domestic Animals 4th ed. に記載されているヒトの唾液腺腫瘍の WHO 分類を参考にして上記診断とした.(阿野直子)
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