No.875 トリの上頚部軟部組織腫瘤

摂南大学


[動物]トリ,セキセイインコ,雄,4 歳.
[臨床事項]頸部の腫脹と元気食欲の低下の主訴にて来院.レ線検査で均一な構造の腫瘤が胸郭前口に近い頚部の軟部組織内に認められた.腫脹部の皮膚が黄色化していた.抗生物質,ビタミン剤の投与により元気食欲は回復したが,腫脹部はその後1ヶ月間大きさに変化なく突然死.
[固定後肉眼所見]20 x 15 x 13 mm の被膜に包まれた白色腫瘤で,部分的にオレンジ色を呈していた.割面は脆弱で白色充実性であり,透明から褐色の変色巣を頻繁に認めた.
[組織所見]繊細な線維性被膜に包まれた腫瘤で,被膜に隣接して神経細胞や神経線維を含む既存の神経節が認められた(図 1,矢印:神経節).腫瘍は血管を含む結合組織により不完全に分画され,小型の核小体,やや肥厚した核縁,大小不同の類円形核を特徴とする小型細胞の充実性増殖からなり,各腫瘍細胞の境界は不明瞭であった(図 2).腫瘍細胞の細胞密度は血管結合織近傍で高かったが,胞巣の中心に向かうにつれて低くなり,弱好酸性の繊維状基質を交えるようになる.また,神経節細胞様の大型細胞(図 3a),好酸性の豊富な細胞質を特徴とする筋様細胞(図 3b)を頻繁に認め,一部に上皮様の腺管が形成されていた.免疫組織学的には,大部分の神経節様細胞は S-100,NeuN,NSE 陽性,すべての筋様細胞は S-100,desmin,HHF35 陽性を示した(図 4).小型の腫瘍細胞は細胞密度が低い領域を主体に S-100 陽性となり,NF,NSE 陽性細胞もまれに認めた(図 4).また,細胞密度の高い領域では細胞膜に一致するように desmin が網目状に陽性となった.電顕的検査では,神経節様細胞には粗面小胞体が発達し,神経内分泌顆粒が散在していた.小型細胞は平滑な細胞膜からなり,細胞内小器官の発達が悪く,時折隣接する細胞と接着装置がみられた.また,細胞間に電子密度の高い細線維物質を散見した.
[診断]神経節芽腫 (ganglioneuroblastoma)
[考察]小型細胞と大型神経節細胞が混在する腫瘍であり,神経細胞およびシュワン細胞への分化を示すことから上記の診断とした.腫瘍の発生母組織は神経節を含んでいることから神経節と考えられたが,筋様細胞,上皮様腺管,網目状の desmin 陽性所見は胸腺由来の可能性も示し,発生臓器について疑問を残した.(尾崎清和)