[動物]イヌ,雑種,雄,12 歳.
[臨床事項]右肘部に腫瘤を認めるということで某動物病院にて摘出手術が行われた.畜主によると腫瘤は 2 年ほど前に発生し,しだいに大きくなってきたとのことであった.
[肉眼所見]10×10×8 cm 大の皮下腫瘤が認められ,その表面は自潰していた.割面は乳白色充実性・多結節状で,壊死巣が散見された.
[組織所見]腫瘤は皮下織から真皮にかけて存在し,豊富な線維性結合組織で大小の細胞増殖巣に分画され,各領域で様々な組織像を呈していた.紡錘形の腫瘍細胞が主体を占める領域では小血管を中心とする腫瘍細胞の渦巻き状配列が認められた(図 1).豊富な好酸性細胞質を有する腫瘍細胞が主体を占める領域では,上皮様細胞も出現し,腫瘍細胞によって囲まれた管腔様構造が認められた(図 2,矢印).腫瘍細胞はビメンチン(図 3)に陽性,S-100 タンパクに一部が弱陽性,サイトケラチン(図 4),デスミン,α-smooth muscle actin に陰性であった.管腔内や腫瘍細胞の細胞質にアルシアンブルー陽性の粘液は認められなかった.電顕では細胞間接着装置や基底板が認められた.細胞質内にはフィラメント構造,ミトコンドリア,リボゾームが観察された.
[診断]Canine hemangiopericytoma
[考察]診断として canine hemangiopericytoma と synovial sarcoma を考えた.synovial sarcoma は二相性増殖が特徴とされる腫瘍で,部分的に hemangiopericytoma 様の増殖パターンがみられることもある.本症例は,腫瘍細胞による管腔形成を疑わせる像が観察されたため,synovial sarcoma を疑ったが,二相性の判断に有用であるサイトケラチンに陰性であること,およびアルシアンブルー陽性の粘液が管腔内や腫瘍細胞の細胞質内に認められなかったことから否定した.canine hemangiopericytoma は紡錘形細胞が小血管を中心として渦巻き状に配列する像が特徴であるが,腫瘍細胞の形態にはバリエーションがあり,上皮様の形態を示す細胞が出現することもある.免疫染色や電顕の結果からも,Canine hemangiopericytoma を否定する所見はみられなかったことから,上記診断とした.(土居卓也)
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