[動物]イヌ,ゴールデンレトリバー, 雄,7 歳.
[臨床事項]2002 年 4 月にフィラリア予防のため某動物病院へ来院時,尾根部皮膚に約 2 cm 大の腫瘤を発見するが,オーナーの希望で切除せず.2003 年 4 月の来院時,オーナーはフィラリア予防とともに,腫瘤の切除を希望.1年間にほとんど大きさの変化はなかった.同切除材料が当研究室に送付された.この患畜は数年前から尾根部に掻痒感を持つのか,臀部や尾根部をしばしば壁などにこすりつける仕草を示していたとのこと.
[肉眼所見]腫瘤全体は 2.5×2.5×1.5 cm 大,硬結感あり.割面では径 1.5 cm と 1.0 cm 大の隣接した 2 つの白色結節を認めた(図 1).
[組織所見]真皮から皮下組織にかけて,大小の末梢神経様束状構造が豊富な膠原線維と粘液基質を伴って増生していた.小型の神経束状構造の中には数個の髄鞘様構造を認め,鞘の内部には弱好酸性の微小球状構造を認めた(図 2).大型の束状構造の中には 5〜10 数個の髄鞘様構造が見られ,それぞれの内部に弱好酸性の微小球状構造を容れていた(図 3,矢印).後者の髄鞘様構造は LFB 染色で青染された.間質では紡錘形細胞が疎に観察され,また多量の膠原線維が増生していた.免疫組織化学的には,束を包む膜に位置する細胞(末梢神経の周膜細胞に相当),鞘を構成している細胞(シュワン細胞に相当)ともに抗 S-100 タンパク抗体に陽性を示し,間質の紡錘形細胞の約半数が陽性を示した.大型束状構造の鞘の内部に見られた微小球状構造は抗ニューロフィラメント抗体に陽性を示した.電顕的には,小型の束状構造は神経周膜(図 4,矢印)に囲まれたシュワン細胞,線維芽細胞様細胞,膠原線維によって構成されていた.シュワン細胞はしばしば collagen pocket を形成していた(図 4,星印).大型の束状構造は,電子顕微鏡試料の中から見つけることができなかった.
[診断]外傷性神経腫 Traumatic neuroma
[考察]ヒトの外傷性神経腫は,成熟した末梢神経組織から構成されると報告されている.本症例は,非常に未発達ではあるが多くの末梢神経を裏付ける組織学的,電顕的所見が得られ,また臨床病歴でも患部に外傷があったことが明らかであり,外傷性神経腫と診断した.(中村紳一朗)
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