[動物]豚,(品種,性別,年齢は不明). [臨床事項]1997-1999年,マレーシアの養豚場関係者の間で致死的な急性脳炎が流行し,患者の髄液からニパウイルスが分離された.同時期に呼吸器症状と神経症状を呈する豚の疾病が発生した.ニパウイルスの撲滅計画に基づいて感染症発生地域の発症豚と同居豚,さらに血清学的サーベイランスで抗体陽性の養豚場の豚が殺処分された.提出標本は1999年に殺処分された豚の肺で,マレーシア獣医学研究所から分与された. [剖検所見] ホルマリン固定臓器に,肺小葉のうっ血,硬化,小葉間結合組織の拡張,気管支の閉塞,腎臓皮質の点状出血,脳髄膜のうっ血が認められた. [組織所見]細気管支中心性に病変が分布する肺小葉(図 1)では,細気管支上皮(図 2)とその周囲の肺胞上皮に合胞体と好酸性細胞質内封入体形成,細気管支と肺胞内への好中球浸出,細気管支粘膜固有層とその周囲の間質にリンパ球・形質細胞浸潤が認められた.一部の肺小葉全体にうっ血と肺胞内出血があり,細気管支上皮の合胞体と好酸性細胞質内封入体形成(図 3),上皮の壊死・剥離,細気管支に隣接する小静脈壁のフィブリン沈着を伴う壊死と好中球浸潤,細気管支と肺胞内へのマクロファージ浸出,肺胞壁毛細血管内フィブリン析出,胸膜下や小葉間のリンパ管拡張がみられた.細気管支上皮に病変がない部位でも,粘膜固有層や周囲の間質にリンパ球・形質細胞浸潤がみられた.抗ニパウイルスモノクローナル抗体を用いた免疫染色により,細気管支(図 4)や肺胞の合胞体に加えて,小動脈平滑筋,リンパ管内皮にウイルス抗原が検出された.ウイルス抗原陽性の動脈内膜と中膜ではフィブリン沈着や好中球浸潤がみられた. [診断]ニパウイルス感染による気管支間質性肺炎および血管炎 [考察]本例は,ニパウイルスが気道から侵入することにより気管支炎が生じ,周囲の小静脈へウイルスが伝播して類線維素変性が起こり,さらに血行性伝播により気管支肺炎病巣から離れた動脈にも動脈炎が生じたものと推察された.血管病変には免疫複合体等の関与の可能性も指摘された.ニパウイルス抗原の有無に係わらず多くの細気管支周囲にリンパ球・形質細胞浸潤がみられた.これらの細胞浸潤については,ニパウイルスに特異的な反応であるか不明であるが,粘膜関連リンパ組織における系統的な免疫応答の存在が考えられた.(谷村信彦)
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