No.882 オセロットの胃

動衛研・北海道,北海道石狩家保


[動物]オセロット(ネコ科ネコ属),雌,19 歳.
[臨床事項]左側鼻腔から出血し,鼻の周囲に血餅が付着していた.食欲,活力は低下し,脱水がみられた.翌朝,死亡しているのを発見された.本個体は生前に時折,軟便が認められていた.
[剖検所見]左鼻甲介に血餅が充満し,粘膜にび慢性の出血を認めた.左肺中葉の臓側面に長径 1.5 cmの淡白色の膿瘍が形成されていた.両肺全葉の背側面に微小膿瘍が多発していた.胃内容は未消化物が多かった.胃底部粘膜に直径 0.1〜0.5 cm の潰瘍が散在していた.
[組織所見]粘膜下緻密層には石灰沈着があった.固有胃腺の潰瘍部の粘膜固有層に好中球の軽度浸潤が認められた.潰瘍部以外の固有胃腺は壁細胞の過形成により肥厚していたが,主細胞,副細胞は減少していた.壁細胞内と胃小窩に好塩基性の螺旋菌が多数確認された(図 1).壁細胞はしばしば多核化し,少数ながら核濃縮や壊死しているものもあった.螺旋菌は Warthin-Starry 染色にて好銀性を示し(図 2),抗 Helicobacter pylori ポリクローナル抗体を用いた免疫染色にて陽性反応が見られた.抗 PCNA 抗体を用いた免疫染色では,固有胃腺の増殖帯のみならず粘膜下層の壁細胞にも陽性反応が見られた(図 3).透過型電子顕微鏡観察では,胃小窩,壁細胞の分泌細管および細胞質内に螺旋菌を確認した.螺旋菌は,長さ 4.9〜6.9 μm,幅 0.4〜0.6 μm,8〜10 回転,少なくとも 4 本の極毛を持っていた(図 4).
[診断]オセロットにおける緻密層の石灰化と胃潰瘍,Helicobacter spp. による壁細胞の過形成
[考察]緻密層の石灰沈着は,加齢によるものと考えられた.これまでネコの Helicobacter 属菌は分泌細管内つまり細胞外に存在すると報告されている.一方,サルで細胞内に存在するとの報告はあるものの,その数は少なく不明確である.今回の症例ではこれらの報告と異なり,形態学的特徴から H. heilmannii に類似した螺旋菌が非常に多くの壁細胞の細胞質内に多数みられたのが特徴的であった.壁細胞は障害を受けていないことから,この螺旋菌は細胞内寄生し,壁細胞数の増加に関与していると考えられた.潰瘍の形成機序は不明であった.(嘉納由紀子)
[参考文献]
1. Dubois, A. et al. 1991. Gastroenterology 100:884-891.
2. Happonen, I. et al. 1996. J. Comp. Pathol. 115:117-127.
3. Scanziani, E. et al. 2001. J. Vet. Diagn. Invest. 13:3-12.