No.883 イヌの心臓と肝臓

東京大学


[動物]犬,ゴールデンレトリバー,雌,9 歳 10 ヶ月,体重 46 kg.
[臨床事項]2002 年 12 月 6 日に元気と食欲の低下,吐き気,多飲多尿などを主訴に東京大学動物医療センター内科を受診.X 線とエコー検査から子宮蓄膿症を疑い,同月 8 日に同センター外科に転科.輸液療法と抗生剤投与などを行ない,同月 9 日に卵巣子宮全摘出術を実施(病理組織学的診断:子宮内膜嚢胞状過形成).手術の前後および手術中に著変は認められなかったが,翌 10 日に死亡.本患畜は肥満傾向にあり,手術中の体温上昇,術後のパンティングが認められた.
[剖検所見]右乳腺部に径約 3 cm と 1.5 cm の腫瘤が 2 個認められた(乳腺癌と診断し,全身転移を確認).心臓には割面で暗茶色や黄白色の不整な小型変色領域が散見された.肝臓では径約 6 cm の腫瘤が複数の葉で認められた(結節性過形成)が,提出標本のような結節(径約 0.5 cm)は,1 ヶ所しか認められなかった.その他の臓器には乳腺癌の転移巣以外,特に変化は認められなかった.
[組織所見]心筋動脈壁の好酸性物質(図 1)は,コンゴレッド染色陽性で(図 2),偏光観察により緑色屈折光が確認され(図 3),電顕で微細線維状構造が観察(図 4)されたことから,アミロイドと判定した.また,肺(肺胞壁血管)と脾臓(小型動脈)の血管内膜下にもアミロイドの沈着巣が散見された.一方,肝結節類洞内の好酸性物質(図 5)は,コンゴレッド染色陰性で,電顕では微細顆粒状構造(図 6)であったためアミロイドではないと判断された.また,apolipoprotein E, amyloid P component, β-2-microglobulin, transthyretin, α-fetoprotein, albumin, canine IgG, laminin, fibronectin についての免疫染色には全て陰性を示した.肝の好酸性物質はさらに PTAH 染色陰性(図 7),PAS 染色陽性(図 8)(ジアスターゼ処理に抵抗性),アルシアンブルー染色陰性,LFB 染色で一部陽性(図 9)であることから,糖脂質が疑われた.
[診断]心臓の動脈におけるアミロイド沈着および肝における限局性の複合糖質(糖脂質?)の沈着
[討議事項]肝での沈着部位が類洞かディッセ腔か不明のため,診断名から類洞内という表記をはずした.(上塚浩司)