No.885 ネコの腹腔内腫瘤

鳥取大学


[動物]ネコ,雑種,去勢雄,5 歳.
[臨床事項]一週間前から食欲減少.臨床検査により腹部中央に大腫瘤が認められた.削痩,軽度脱水,体温 40.6 ℃,ALT 3 U/l,Alb 1.9 g/dl,WBC 19,800 /μl.抗生剤および抗炎症剤による加療を行うも嘔吐,食欲廃絶.第 6 病日に腹腔内腫瘤摘出術実施後に死亡.
[剖検所見]腫瘤は270 g,10.7×8.2×7.7 cm,黄白色,充実性で硬結感を有し,大網に癒着,大網によって完全に覆われていた(図 1).割面には多数の小結節が認められ,小結節の中心は黄色顆粒状を呈していた(図 1 挿入図).腹水は認められなかった.
[組織所見]腫瘤は化膿性肉芽腫性病変であり,線維化(被包化)が顕著である,中心部の菌塊が大きい(〜2000 μm),Splendore-Hoeppli 現象が弱い,棍棒体を欠くこと等が特徴であった(図 2).大菌塊は,グラム陽性の桿菌を主体とし,多形性(T, Y, V 字状)(図 3),チールニールセン染色陰性,抗 Actinomyces naeslundii ウサギ血清を用いた免疫染色陽性(図 4)を示した.
[診断]放線菌アクチノマイセス属感染による猫の腹腔内化膿性肉芽腫
[考察]放線菌類には嫌気性の放線菌 Actynomyces 属と好気性のノカルジア Nocardia 属がある.前者は口腔内に常在し,頭頸・顔面部,腹部,胸部での発生が多い.後者は,主に経気道的あるいは経皮的に土壌などから感染することが多く,気道感染の場合,肺から血行性に全身性に広がることもある1.滲出性炎を欠いた腹腔内肉芽腫性炎症であることや,大きな細菌塊(硫黄顆粒),菌体の多形性などの特徴的組織所見(上記)から,放線菌アクチノマイセス属感染による化膿性肉芽腫と診断した2Actinomyces naeslundii 感染実験により,ハムスターの腹腔内に肉芽腫が形成されたという報告があるが,猫を含めたその他の動物での報告は無く,本菌の病原性について今後検討が必要と思われる.(島田章則)
[参考文献]
1. Edwards, D.F. 1998. Actinomycosis and Nocardiosis. pp 303-313. In: Infectious Disease of the Dog and Cat 2 nd ed., C.E., Greene Ed, W.B., Saunders Company, USA.
2. Kawamura, N., Shimada , A. et al. Intra-peritoneal actinomycosis in a cat. Vet. Rec. in press