No.886 ウシの腸管腫瘤

帯広畜産大学


[動物]ウシ,ホルスタイン,雌,2 歳.
[臨床事項]2002 年 5 月 2 日,発熱 38.8 ℃,腹痛症状を呈し,食欲廃絶.血液検査にて白血球数 13,800,ヘマトクリット値 47.1 %,クロール値 70 meq/l を示したため開腹手術.空腸部に重積が認められ,拇指頭大〜小指頭大の腫瘤が認められた.その部を含め 20 p が切除され,ホルマリン固定材料として送付された.
[剖検所見]材料は表面粗造の褐色腫瘤で,割面には広範な出血部と共に微小な黄白色チーズ様結節が多数観察された.
[組織所見]組織学的に腫瘤は多数の肉芽腫により構成されていた(図 1).肉芽腫中心部は好酸性の乾酪壊死巣や変性壊死細胞の集簇によって構成され(図 2〔図 1 四角部拡大〕),塊状石灰沈着や好塩基性の糸くず様構造物(図 3)がしばしば観察された.肉芽腫巣辺縁部には多核巨細胞が出現していた.好塩基性糸くず様構造物はコッサ反応において黒褐色陽性染まり,メチレンブルー染色を重ねたところ,コッサ陽性の構造物の延長に青く染まった菌体が連なって観察された(図 4).グロコット染色において肉芽腫巣内には菌糸様分枝を有する菌体が多数認められ,菌体はグラム染色(ブラウンとブレン)陽性,チールネルゼン(原法)陰性,同(ベンゼン法)陽性であった.
[診断] 牛の空腸におけるノカルジア性肉芽腫
[考察]本検体は肉芽腫巣中心部にグラム陽性・弱抗酸性・分枝を持つ細菌が認められた為,病理組織学的診断名を上記とした.本検体では肉芽腫中心部に好塩基性の菌体様の糸くず様構造物が認められた.それら構造物はコッサ反応・メチレンブルー二重染色により菌体に石灰が沈着したものであると確認された.通常ノカルジアはH.E.染色において菌体を観察することはできないが,何らかの要因によって菌体に石灰沈着が起こり好塩基性の構造物として観察できたと考えられた.また,牛に対するノカルジアの進入門戸はこれまで呼吸器(肺)とされてきたが,消化管も進入門戸のひとつである可能性が示唆された.(堀内雅之)
[参考文献]
Sakui,M. et. al. 1997. A case of hepatic gramuloma due to Nocardia sp. in a bullock. J. Jpn. Vet. Med. Assoc. 50: 477-479.