No.888 ラットの精巣と精巣上体

残留農薬研究所


[動物]ラット,Crj:CD (SD) IGS,雄,22 週齢.
[臨床事項]本例は二世代繁殖毒性試験の F1 親動物で,投与完了時に殺処分された.精巣・精巣上体病変と被験物質投与との間に関連はなかった.本例以外にも,両臓器に本例と同じ組織変化を示す動物が 1 例存在した.それらの雄動物に交尾は確認されたが,交配相手の雌はいずれも妊娠しなかった.片側の精巣・精巣上体を用いて精子検査を実施した結果,2 例中 1 例で精巣内精子頭部数の軽度な減少が観察され,2 例中 2 例の精巣上体内精子に顕著な形態異常が観察された.
[剖検所見]精巣および精巣上体に肉眼的異常はなかったが,問題の 2 例中 1 例の精巣上体の重量 (対体重比 0.0843) が軽度に軽かった (群平均対体重比 0.1109).精巣重量に異常はなかった.
[組織所見]精巣上体管では,脱落精上皮細胞の増加に加え,腔内の全精子の頭部に形態異常 (顕著な収縮) が観察された(図 1).精巣の精細管腔内でも,精巣上体での精子形態異常に類似した頭部(核)の異常が全ての長形精子細胞に観察された.一般に,ラット正常精巣の精子形成サイクル (Stage 1〜14) の過程で精子細胞となった精上皮細胞は,Step 1〜19 の変形を経た後,精巣上体へと輸出される.本症例では,Step 1〜9 の円形精子細胞の形態に異常はなかったが,Step 10 の精子細胞の核には濃縮がみられ,Step 11〜19 の長形精子細胞の頭部は徐々に短くかつ濃縮 (Step 12,図 2) していき,精巣上体に存在する精子の形態に近づいていった.長形精子細胞頭部の形態異常は電顕でも確認された.また精巣では,セルトリ細胞の空胞化や精子形成の停滞あるいは合胞体形成のある箇所が一部の精細管に認められた.
[診断]精子頭部形成異常症
[考察]SD (IGS) ラットを用いる繁殖毒性試験では,異常精子が 0 〜10.9 %の頻度で観察されるというが,それらの精子異常には様々な種類および程度の形態異常が含まれていると考えられる.本例では,精子頭部の形態異常が精巣の長形精子細胞の段階で形作られていた.ほぼ 100 % の精子が重度かつ同一種類の奇形を持って産生されるという例は珍しく,遺伝的障害によって発生した可能性が高い.なお,一部の精細管にみられたセルトリ細胞空胞化や精子形成の停滞・合胞体形成と精子奇形との関連は不明であった.(中島信明)