[動物]ウシ,黒毛和種,雌,6 カ月齢.
[臨床事項] 2004 年 7 月 10 日頃より左前肢が腫脹し,跛行を示し,患部は熱感があり圧すると疼痛が認められたが,外傷・骨折はみられなかった.精査のため 8 月 2 日に本学動物病院に上診.左前肢および左前胸部が高度に腫大,硬結していた.8 月 10 日に試験切開を実施,明らかな腫瘍性病変と判断し安楽殺後,剖検された.
[肉眼所見]左前肢橈骨および中手骨後側に連続する小児頭大腫瘤,前胸部にも腫瘤が認められた.腫瘤は骨格筋を置換する形で存在し,割面は白色および赤褐色巣が混在していた.左前肢と左前胸部の腫瘤には連続性は認められなかった.その他臓器に肉眼的異常は認められなかった.
[組織所見]腫瘤は線維性結合織により大まかに分画され,腫瘍細胞は薄い結合組織によって胞巣状〜索状あるいは小塊状に分画されていた(図 1:HE 染色).腫瘍細胞は細胞質に乏しく,1 ないし数個の核小体を容れた円形から類円形核を有し,小型円形から多角形を呈していた.線維性隔壁内部では腫瘍細胞が比較的密に存在し,辺縁では細胞が一列に壁に沿って存在し,つるし柿様を呈している部位も認められた.一部,胞巣の内部では腫瘍細胞が接着性を失い,まばらになっている像が認められた.鍍銀法において腫瘍細胞塊を分画していた結合織に好銀線維が認められた.好銀線維は一部腫瘤塊内部に入り,個々の腫瘍細胞を囲み箱入り像を呈していた(図 2:鍍銀法).また,腫瘍細胞は Desmin, Myoglobin, Myosin, Vimentin に陽性,Cyrtokeratin, α-SMA, S-100 に陰性であった(図 3:Desmin,図 4:Myoglobin).
[診断]胞巣型横紋筋肉腫
[考察]腫瘍の細胞形態および増殖様式から胞巣型横紋筋肉腫と診断した.胞巣型横紋筋肉腫の腫瘍細胞は部位によりラケット型の腫瘍細胞も存在するとされるが,本症例では腫瘤部の腫瘍細胞は極めて未分化であったため診断に苦慮した.リンパ節において形成された転移巣ではわずかに分化が認められたが,若齢牛での報告は少なく,稀な症例ではないかと思われた.
(生澤充隆・御領政信)
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