No.896 ウマの鼻腔内腫瘤

大阪府立大学


[動物]ウマ,サラブレッド,去勢雄,11 歳,鹿毛,体重約 500 kg.
[臨床事項]右眼からの流涙が目立ち,右鼻孔から出血するとの主訴で本学家畜病院に来院.内視鏡検査により右鼻腔に血腫様の腫瘤を確認する.その後,鼻出血がさらに激しくなるとともに,右眼球の突出と眼瞼周囲の浮腫が目立つため,腫瘍性の病変を疑いオーナーの希望により安楽殺し剖検した.
[剖検所見]腫瘤は右外鼻孔より約 15 cm 奥に入った部位から鼻粘膜嗅部のあたりまで,鼻甲介を完全に融解し,右鼻腔を埋め尽くすように存在していた(図 1:第 4 臼歯あたりの頭部横断面;*,腫瘍組織).腫瘤は,右頬骨と涙骨の一部を融解し,前頭洞へ浸潤していた.しかし,鼻中隔の融解と頭蓋内への浸潤はなかった.腫瘤は,黄色から桃色を呈し,やや弾力性があり充実していた.また,出血巣が割面の至るところに認められた.
[組織所見]クロマチン豊富な円形核と乏しい細胞質を有する円形から卵円形細胞の増殖から主に成り(図 2),時に血管周囲性の偽ロゼット形成(図 3)や Homer-Wright 型偽ロゼット形成(図 4)が認められた.また,腫瘍細胞により内張された小シストが散見された.免疫組織化学的に,腫瘍細胞はビメンチン抗体,S-100 蛋白抗体,NSE 抗体に強陽性で,GFAP 抗体と microtube-associated protein 抗体陽性細胞が混在した.サイトケラチン抗体,デスミン抗体,α-平滑筋アクチン抗体,neurofilament 抗体,synaptophysin 抗体, chromogranin A 抗体,Melan A 抗体,MBP 抗体に対しては陰性であった.電顕的に腫瘍細胞の細胞質に微細線維が存在した.
[診断]鼻腔神経芽細胞腫(嗅神経芽細胞腫)
[考察]嗅上皮は,嗅細胞(感覚上皮),支持細胞と基底細胞から成る.鼻腔神経芽細胞腫は嗅上皮,特に基底細胞に由来するとされる.基底細胞は発生学的に神経外胚葉起源の olfactory placode であることから,ヒトの鼻腔神経芽細胞腫では,今回の症例のように neuroblastoma 様の組織像を示す例から,paraganglioma や neuroendocrine carcinoma 様の組織像が混在する例など,多彩な像を示すことが報告されている.(山手丈至)