[動物]イヌ,雑種,雌,9 歳,体重 22.5 kg. [臨床事項]2003 年 5 月に流涎と嘔吐を主訴に来院.X 線検査により前縦隔部に腫瘤陰影と食道拡張像(巨大食道症)が認められ,重症筋無力症が疑われた.放射線および化学療法の後,腫瘤の縮小が確認され,同年 8 月に前縦隔部腫瘤の摘出手術が行われた.2004 年 2 月に腫瘤が再発し,前・後縦隔部,心膜および左右胸壁に固着していた腫瘤を摘出した. [剖検所見]前縦隔部腫瘤は 4 個認められ,大きさ約 2×2×1 cm から 8×7×5 cm で柔軟,充実性,乳白色を呈し,腫瘤の一部が右側胸壁に癒着していた.また,心基底部,心尖部そして心膜付近の脂肪組織に小型の腫瘤が多数形成されていた.20 mL の血様胸水が存在. [組織所見]円形の上皮様細胞とリンパ球が小葉状に増殖.上皮様細胞とリンパ球の割合は部位により異なっていたが,全体的に上皮様細胞の割合が優勢であった.上皮様細胞は異型性に富み,核は大小不同で淡明,円形または類円形で明瞭な核小体を有していた(図 1).免疫組織化学的に上皮様細胞は抗サイトケラチンに陽性,リンパ球は抗 CD3 に陽性.電子顕微鏡学的には上皮性細胞はミトコンドリア,少数の粗面小胞体,ゴルジ装置,トノフィラメント(図 2)が発達,また明瞭なデスモゾーム(図 3)が認められた. [診断]悪性胸腺腫(Malignant Thymoma) [考察]動物の WHO 分類では胸腺癌と悪性胸腺腫を同様な診断名として扱っているが,ヒトでは,胸腺腫と組織学的に類似しながら組織浸潤や転移を示すものを悪性胸腺腫(Type I),そして胸腺由来の扁平上皮癌,類基底細胞癌,淡明細胞癌,腺癌などを胸腺癌(Type II)と命名している.今回の症例は,組織学的に明らかに胸腺腫であり再発,胸腔内転移がみられたことより胸腺癌と区別して,悪性胸腺腫(Type I)と診断した. [参考文献] 1. Valli, V.E. et al. 2002. Histological classification of hematopoietic tumors of domestic animals. WHO 2nd series, volume VIII.
2. Lack, E.A. et al. 1998. The endocrine system. pp1152-1204. In: Pathology. E Rubin and JL Farber Eds, 3rd ed, Lippincott-Raven.
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